~脳の働き方の特徴を理解し、一人ひとりに合った支援につなげる~
1.発達障害と脳機能の関係
発達障害は、生まれつきの脳の発達や情報処理の特徴によって、行動やコミュニケーション、学習、注意の調整、感情のコントロール、感覚の受け取り方などに特性が現れる状態です。医学的には「神経発達症」とも呼ばれ、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などが含まれます。
発達障害のある子どもが日常生活や集団活動で困難を抱えるのは、本人の努力不足や保護者のしつけが原因というわけではありません。情報を受け取り、理解し、記憶し、判断して行動につなげる過程には個人差があり、その違いによって、周囲の人には簡単にできることが難しく感じられる場合があります。
例えば、口頭で説明された複数の手順を覚えて行動することが難しい子どももいれば、周囲の音や人の動きが気になり、目の前の活動に集中しにくい子どももいます。また、予定の変更に強い不安を感じたり、自分の考えを言葉で伝えることに時間がかかったりする場合もあります。
一方で、特定の分野への強い関心、細かな違いに気づく観察力、興味のあることを深く掘り下げる力、独自の発想力などを発揮する子どももいます。ただし、こうした強みも全員に共通するものではなく、一人ひとり異なります。
ここで大切なのは、発達障害を単に「できないこと」として捉えないことです。脳の働き方にはさまざまな特徴があり、それがどのような場面で困難につながるのか、どのような環境で力を発揮しやすいのかを理解することが重要です。
なお、発達障害の特徴は、脳の特定の部位だけで説明できるものではありません。複数の脳機能や認知機能が関係しており、本人の特性と周囲の環境との組み合わせによって、困りごとの現れ方も変わります。
そのため、診断名だけで子どもの行動を判断するのではなく、本人の感じ方や得意・不得意を理解し、環境や支援方法を工夫していくことが大切です。
2.脳の主な機能と子どもの行動の関係
① 前頭前野と実行機能
前頭前野は、目標に向かって行動を組み立てたり、状況に応じて判断したりする働きに関係しています。こうした計画、優先順位づけ、行動の抑制、切り替えなどの働きは「実行機能」と呼ばれます。
実行機能は、日常生活や集団活動を円滑に進めるうえで重要な役割を担っています。
例えば、次のような行動が見られることがあります。
- 活動の手順が分からず、何から始めればよいか迷ってしまう。
- 目の前のことに取り組んでいるうちに、次の予定を忘れてしまう。
- 順番を待つことや、思いついた行動をいったん止めることが難しい。
- 活動の途中で予定が変わると、気持ちや行動を切り替えにくい。
こうした行動には、実行機能の特性が関係している場合があります。ただし、同じような行動でも、指示の理解が難しい、不安が強い、疲れているなど、別の要因が影響している可能性もあります。
支援では、行動を単に「わがまま」「落ち着きがない」と判断するのではなく、本人が行動を整理するために、どのような手がかりを必要としているのかを考えます。
具体的には、活動の手順を写真やイラストで示す、指示を一つずつ伝える、終わった課題をチェックできるようにする、タイマーで残り時間を見えるようにするなどの方法があります。
例えば、「片づけをしてから、手を洗って、席に座ってください」と複数の指示を一度に伝えるのではなく、「まず、おもちゃを箱に入れよう」と一つずつ伝えます。最初の行動ができたことを確認してから、次の指示を出すことで、本人が取り組みやすくなる場合があります。
子ども自身の努力だけに頼るのではなく、行動を整理しやすい環境を整えることが、主体的に活動する力を育てることにつながります。
② 注意機能と情報の選択
注意機能は、必要な情報に意識を向け、集中を維持し、状況に応じて注意を切り替える働きです。
私たちは日常生活の中で、さまざまな音や視覚情報を受け取っています。その中から必要な情報を選び、目の前の活動に意識を向ける必要があります。
例えば、先生の説明を聞いている途中で、周囲の会話や物音に気を取られる子どもがいます。また、好きな活動には長時間集中できる一方、興味を持ちにくい課題では注意を維持することが難しい場合もあります。
こうした様子は、本人が意図的に話を聞いていないことを意味するわけではありません。周囲の刺激の影響を受けやすい、注意を維持することに負担がある、課題の内容や難易度が本人に合っていないなど、さまざまな背景が考えられます。
支援では、注意を向けるよう繰り返し注意するだけでなく、集中しやすい環境を整えることが重要です。
例えば、次のような工夫が考えられます。
- 机の上に必要な教材だけを置き、余分な刺激を減らす。
- 短く具体的な言葉で指示を伝える。
- 長い課題を小さな単位に分け、途中で達成感を得られるようにする。
- 集中する時間と休憩する時間をあらかじめ設定する。
- 興味のある題材や得意な活動を取り入れる。
ただし、すべての子どもに同じ方法が有効とは限りません。環境を変えたときに集中しやすくなるか、課題の量を調整すると取り組みやすくなるかなど、本人の様子を確認しながら方法を選ぶことが大切です。
③ 記憶と情報の整理
記憶は、情報を覚え、保持し、必要なときに思い出すための働きです。その中でも、短い時間、情報を頭の中に保ちながら操作する働きは「ワーキングメモリ」と呼ばれます。
例えば、口頭で伝えられた複数の指示を覚えておくことや、計算の途中で数字を保持することなどに関係しています。
ワーキングメモリに負担がかかると、説明を聞いた直後でも手順を忘れてしまったり、途中までできていた作業が分からなくなったりする場合があります。本人が説明を理解していないとは限らず、情報を一度に保持することが難しい可能性もあります。
支援では、口頭で伝えた内容を紙やカードに書いて残す、手順を番号で示す、必要な情報を見える場所に掲示するなどの工夫が考えられます。
例えば、持ち物の準備では「連絡帳、筆箱、宿題を入れてね」と一度に伝えるだけでなく、チェックリストを用意し、一つずつ確認できるようにします。
記憶することだけを求めるのではなく、メモやチェックリストなどの道具を活用し、必要な情報を自分で確認できる環境を整えることも、自立を支える大切な方法です。
3.発達障害の種類と脳機能の特徴
① 自閉スペクトラム症(ASD)
ASDでは、対人コミュニケーションや社会的なやり取りに特性が見られたり、特定の物事への強い関心、決まった手順へのこだわり、感覚の過敏さや鈍さなどが現れたりすることがあります。
例えば、相手の表情や言葉の意図を読み取ることが難しい、曖昧な説明では何をすればよいか分からない、予定変更に強い不安を感じる、周囲の音が気になって活動に参加しにくいといった様子です。
こうした特徴には、社会的な情報の理解、情報の処理、状況の予測、感覚情報の受け取り方など、複数の機能が関係していると考えられています。ただし、ASDのある子ども全員に同じ特徴が現れるわけではなく、特性の現れ方や必要な支援は一人ひとり異なります。
例えば、言葉による説明が得意な子どももいれば、写真やイラストを使った説明の方が理解しやすい子どももいます。また、予定が分かっていれば安心して活動できる子どももいれば、予定が分かっていても人の多さや音の刺激によって負担を感じる子どももいます。
支援では、本人に合った情報の伝え方や環境を見つけることが重要です。
- 一日の予定や活動の流れを事前に伝える。
- 「適当にやって」「ちゃんとして」などの曖昧な表現を避け、具体的に説明する。
- 予定を変更する際は、可能な範囲で事前に伝え、変更後の見通しを示す。
- 苦手な音や光、触感などを把握し、必要に応じて環境を調整する。
- 興味や得意なことを活動に取り入れ、安心して参加できる機会を増やす。
こだわりや特定の行動を、すぐにやめさせるべきものと捉えるのではなく、その行動が本人にとってどのような意味を持つのかを考えることも大切です。不安を和らげるための行動であれば、安心できる環境を整えることが支援の出発点になります。
② 注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDでは、不注意、多動性、衝動性などの特徴が見られます。
例えば、忘れ物が多い、作業の途中で注意がそれる、順番を待つことが難しい、思いついたことをすぐに行動に移してしまうといった様子です。
これらには、注意の調整、行動の抑制、実行機能、ワーキングメモリなど、複数の認知機能が関係している場合があります。ただし、ADHDのある子ども全員に同じ脳機能上の特徴があるわけではなく、特性の現れ方には個人差があります。
また、落ち着きがないように見えても、活動内容が難しすぎる、待ち時間が長い、疲れているなど、環境やそのときの状態が影響している場合もあります。
支援では、行動を繰り返し注意するだけでなく、望ましい行動を取りやすい環境を整えることが重要です。
- 指示は短く具体的にし、必要に応じて本人に内容を確認する。
- 活動の目標を小さく設定し、達成できたことを具体的に伝える。
- 持ち物や課題をチェックリストで確認できるようにする。
- 長時間座り続けることが難しい場合は、適度に身体を動かす機会を設ける。
- 順番やルールを事前に確認し、見通しを持てるようにする。
例えば、活動中に席を離れる子どもに対して、単に「座っていなさい」と伝え続けるのではなく、活動時間を短く区切る、途中で道具を運ぶ役割を設ける、休憩のタイミングを決めるといった方法が考えられます。
本人ができたことを具体的に認めることも重要です。「えらいね」と評価するだけでなく、「合図があるまで待てたね」「最後までチェックできたね」と、どの行動がよかったのかを伝えることで、本人が次の行動に活かしやすくなります。
③ 限局性学習症(SLD)
限局性学習症では、知的な発達全般に大きな遅れがなくても、読む、書く、計算するなど、特定の学習技能の習得や使用に困難が生じることがあります。
例えば、文字を読むことに時間がかかる、文字や文章を書き写すことが難しい、計算の手順を覚えにくい、文章問題の意味を理解することに時間がかかるなど、困難の現れ方はさまざまです。
こうした困難には、言語情報の処理、音韻処理、文字と音の対応、記憶などの認知機能が関係する場合があります。ただし、困難の背景は一様ではなく、脳の特定の機能だけで説明できるものではありません。
学習の困難があるからといって、意欲がない、努力が足りない、理解力が低いと判断することは適切ではありません。学習内容を理解する力と、読み書きや計算を行う技能は、必ずしも同じように発達するわけではないからです。
支援では、どの学習過程でつまずいているのかを把握し、本人が理解しやすい方法を選ぶことが重要です。
- 文章だけでなく、図や写真、具体物を使って説明する。
- 長い文章を短いまとまりに分け、重要な部分を確認する。
- 書くことに大きな負担がある場合は、音声入力やキーボード入力を活用する。
- 計算では、具体物や図を使って数量や手順を確認する。
- 課題の量や制限時間を調整し、理解を確認する時間を確保する。
大切なのは、全員に同じ方法を求めることではありません。学習の目標を明確にしながら、本人の困難を補う方法を取り入れ、学ぶ機会を保障することです。
4.感覚機能と運動機能の関係
発達障害のある子どもの中には、音、光、におい、触感などの刺激を強く感じたり、反対に刺激に気づきにくかったりする子どもがいます。
例えば、体育館の大きな音を苦痛に感じる、衣服のタグや特定の素材を嫌がる、身体に触れられることを避ける、食べ物のにおいや食感によって食事が難しくなるといった様子です。
感覚の受け取り方には個人差があり、周囲の人にとっては気にならない刺激でも、本人にとっては活動を続けることが難しいほどの負担になる場合があります。
反対に、刺激に気づきにくい場合には、周囲の状況に気づくのが遅れたり、十分な刺激を求めて身体を動かしたりすることもあります。ただし、こうした行動だけで感覚特性を判断することはできません。
また、身体の位置や動きを把握する固有受容感覚、身体の傾きや動き、加速度などを感じる前庭感覚も、姿勢や運動の調整に関係しています。
こうした感覚情報の処理や運動の調整に難しさがある場合、物との距離をつかみにくい、力加減が難しい、動作がぎこちない、身体の動かし方をイメージしにくいといった様子が見られることがあります。ただし、運動の困難には、筋力や協調運動、経験、身体的な状態など、さまざまな要因が関係するため、感覚機能だけで説明できるわけではありません。
支援では、本人がどのような刺激を苦手とし、どのような環境で落ち着いて活動できるのかを観察します。
例えば、次のような工夫が考えられます。
- 音が苦手な場合は、静かな場所への移動や休憩の機会を設ける。
- 人との距離を保つ必要がある場合は、立ち位置の目印を示す。
- 動作が難しい場合は、職員がゆっくり見本を示し、動きを小さな段階に分ける。
- 運動の範囲や順番を明確にし、見通しを持って取り組めるようにする。
- 活動の前後に本人の疲労や不安の様子を確認する。
感覚や運動に関する支援では、特定の運動や刺激を取り入れれば必ず脳機能が改善する、と考えないことも重要です。本人の反応を確かめながら、無理なく参加できる活動を選びます。困難が継続し、日常生活や学習への影響が大きい場合は、保護者や関係する専門職と連携し、必要な評価や支援につなげます。
5.脳の発達と経験の積み重ね
子どもの脳は、成長とともに発達し、経験や学習によって神経回路の働き方も変化していきます。このように、経験に応じて脳の構造や機能が変化する性質は「脳の可塑性」と呼ばれています。
発達障害のある子どもも、適切な環境や支援、繰り返しの経験を通じて、さまざまな技能や対処方法を身につけていくことができます。
例えば、最初は順番を待つことが難しくても、順番カードやタイマーを活用し、見通しを持って活動する経験を重ねることで、少しずつ待つことができるようになる場合があります。
また、集団活動でのルールを具体的に確認したり、困ったときに職員へ助けを求める練習をしたりすることで、安心して活動に参加できるようになることもあります。
ここで大切なのは、支援の目的を「苦手な行動をなくすこと」だけに置かないことです。本人が自分の特性を理解し、困ったときに適切な方法を選んだり、必要な支援を求めたりできるようになることも、重要な成長の一つです。
一方で、経験を積めばすべての困難がなくなるわけではありません。特性によっては、成長後も継続的な配慮や支援が必要になる場合があります。本人の努力だけで困難を克服させようとするのではなく、必要な環境調整を続けることが重要です。
また、成長の速度や得意・不得意は一人ひとり異なります。他の子どもと比較して評価するのではなく、その子自身の変化や努力、できるようになったことに目を向けます。
小さな成功体験を積み重ねることは、自信を育てるだけでなく、「どのような方法なら自分は取り組みやすいのか」を本人が知るきっかけにもなります。
6.支援現場で大切にしたいこと
発達障害と脳機能の関係を理解するうえで大切なのは、目に見える行動だけで子どもを評価しないことです。
例えば、「話を聞かない」という行動の背景には、注意を向けにくい、言葉だけでは理解しにくい、周囲の音が気になる、説明が長すぎるといった要因があるかもしれません。
「順番を守れない」という行動にも、待つことへの不安、先の見通しの持ちにくさ、衝動を抑える難しさ、待ち時間の長さなど、複数の背景が考えられます。
さらに、睡眠不足、疲労、体調不良、不安、対人関係の悩みなどによって、普段はできていることが難しくなる場合もあります。
そのため、支援者には、行動だけを見て判断するのではなく、行動が起きる前後の状況を観察し、本人が困っている理由を考える姿勢が求められます。
支援を考える際には、次の点を意識することが重要です。
① 行動の背景を考える
どのような場面で困りやすいのか、何が起きたときに行動が変化するのかを観察します。例えば、活動の開始時に困るのか、途中で難しくなるのか、予定変更のときに不安が強くなるのかなど、状況を具体的に把握します。
② 分かりやすく伝える
言葉だけでなく、見本、写真、イラスト、手順表などを活用します。指示は短く具体的にし、必要に応じて本人が理解した内容を確認します。
③ 環境を調整する
音や人の多さ、課題の量、活動時間、待ち時間などを必要に応じて調整します。本人に我慢を求めるだけでなく、困難を生み出している環境を見直すことが重要です。
④ 成功体験を積み重ねる
できたことを具体的に認め、次の行動につながるようにします。結果だけでなく、自分で確認できたこと、助けを求められたこと、途中で休憩を選べたことなども成長として捉えます。
⑤ 得意なことを活かす
苦手なことへの支援だけでなく、興味や強みを活かせる活動を用意します。得意なことに取り組む経験は、自信や意欲を育てるきっかけになります。
⑥ 本人の意思や感覚を尊重する
支援者がよいと考える方法でも、本人にとって負担が大きい場合があります。嫌がる理由や困っていることを確認し、可能な範囲で本人の希望を支援方法に反映します。
⑦ 職員間で情報を共有する
効果のあった声かけや環境調整、困難が生じやすい場面などを職員間で共有します。支援方法を統一することは大切ですが、状況や本人の状態に応じて柔軟に対応することも必要です。
⑧ 保護者や専門職と連携する
施設や学校での様子だけでは分からないこともあります。保護者から家庭での様子を聞き、必要に応じて医療、心理、教育、福祉などの専門職と連携することで、より適切な支援につなげることができます。
支援の効果を確認するときは、「問題行動が減ったか」だけでなく、「本人が安心して参加できているか」「自分で取り組める場面が増えたか」「困ったときに助けを求められるようになったか」といった視点も大切です。
7.まとめ
発達障害は、脳の発達や情報処理の特徴が、注意、記憶、感覚、運動、コミュニケーション、学習などにさまざまな形で現れるものです。その特徴は一人ひとり異なり、同じ診断名であっても、困難が生じる場面や必要な支援は同じとは限りません。
また、目に見える行動の背景には、認知機能の特徴だけでなく、環境、体調、不安、経験など、複数の要因が関係しています。そのため、行動だけを見て本人の意欲や努力を判断することは避けなければなりません。
支援者に求められるのは、注意や指導を繰り返すことだけではなく、なぜその行動が起きているのか、本人は何に困っているのかを理解しようとすることです。そして、その理解を、具体的な声かけや環境調整、学習方法の工夫などにつなげていくことが大切です。
脳機能について知ることは、子どもの行動を理解するための手がかりの一つです。しかし、脳の働きだけで子どものすべてを説明できるわけではありません。本人の気持ちや意思、生活環境、これまでの経験なども含めて理解する姿勢が求められます。
一人ひとりの特性を理解し、苦手なことを補いながら、得意なことを伸ばしていくこと。そして、子どもが安心して挑戦し、困ったときには周囲に助けを求められる環境を整えること。
それが、発達障害のある子どもの成長と自立を支えるうえで、大切な視点の一つです。



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