「うちの子は、将来、働けるのでしょうか。」
放課後等デイサービスで保護者の方とお話ししていると、そんな言葉を耳にすることがあります。
中学生や高校生になると、高校受験や卒業後の進路が現実味を帯び、「就職」という言葉も少しずつ身近になってきます。
「パソコンができるようになれば大丈夫かな」
「何か資格を取ったほうがいいのかな」
「社会に出て、周りの人とうまくやっていけるだろうか」
お子さんの将来を考えるからこそ、さまざまな不安が浮かんでくるのではないでしょうか。
もちろん、仕事に必要な知識や技術を身につけることは大切です。しかし、実際に働き始め、仕事を続けていくためには、それだけでは十分ではありません。
自分の体調や気持ちに気づくこと。困ったときに人に相談すること。失敗したときに、次にどうすればよいかを考えること。
こうした、社会のなかで自分らしく生活していくための力も大切です。
放課後等デイサービスは、日々の活動や人との関わりを通して、子どもたちが自分の得意なことや苦手なことを知り、将来に向けた土台を少しずつ育てていく場所でもあります。
今回は、中高生の今だからこそ考えたい「働く前の心の準備」について、一緒に考えていきましょう。
1.「できること」だけでなく「続けるための力」を育てる
仕事というと、「何ができるか」という能力に目が向きがちです。
パソコンを操作できること。計算ができること。専門的な知識や技術を持っていること。
これらは、仕事の選択肢を広げる大切な力です。
一方で、働き続けるためには、日々の生活や仕事に取り組むための土台も必要になります。
例えば、次のような力です。
- 自分に合った方法で生活リズムを整える
- 約束や時間を意識し、必要に応じて確認する
- 分からないことを、そのままにせず質問する
- 疲れや体調の変化に気づき、周囲に相談する
- 予定の変更があったとき、必要な支援を受けながら対応する
発達障害のある子どもたちのなかには、こうしたことに難しさを感じる子もいます。
例えば、時間を意識することが苦手な子には、時計やタイマーを活用する。予定の変更が苦手な子には、事前に変更点を伝え、見通しを持てるようにする。
このように、本人の努力だけに任せるのではなく、環境や道具を工夫することで、できることが増えていく場合があります。
大切なのは、誰もが同じ方法でできるようになることではありません。
自分に合った方法を知り、必要な工夫を使いながら取り組めるようになること。
それも、将来の就労につながる大切な準備です。
2.「助けて」と言えることも、自立の一つ
「自立」と聞くと、何でも一人でできることをイメージする方もいるかもしれません。
しかし、社会で生活していくうえでは、すべてを一人で解決する必要はありません。
分からないことを質問する。困ったときに相談する。自分だけでは難しいことについて、必要な手助けを求める。
こうした力も、自立を支える大切な要素です。
職場では、例えばこんな言葉が必要になることがあります。
「すみません、もう一度教えてください」
「ここが分からないので、確認してもいいですか?」
「少し体調が悪いので、相談させてください」
しかし、発達障害のある中高生のなかには、「迷惑をかけたくない」「怒られるかもしれない」「何をどう説明したらいいか分からない」と感じ、困っていても我慢してしまう子がいます。
だからこそ、普段の生活のなかで「困ったときは相談していい」「分からないと伝えても大丈夫」という経験を積み重ねることが大切です。
放デイでも、職員に質問する、分からないことを確認する、自分の気持ちを伝えるといった経験を、日々の活動のなかで積み重ねていきます。
最初から上手に伝えられなくても構いません。言葉にすることが難しければ、カードやメモを使って伝える方法もあります。
何でも一人でできることを目指すのではなく、困ったときに自分に合った方法で助けを求められること。
それが、安心して社会生活を送るための力につながっていきます。
3.失敗を経験し、次の一歩につなげる
子どもを思うあまり、「失敗させたくない」「つらい思いをさせたくない」と考えるのは、自然なことです。
しかし、成長していくなかで、思いどおりにいかないことや、間違えてしまうことは誰にでもあります。
大切なのは、失敗をしないことだけではなく、うまくいかなかったときに、どうすればよいかを考えられることです。
例えば、頼まれた作業を間違えてしまったとき。
「どうしよう、怒られるかもしれない」と不安になるかもしれません。
そんなときに、間違いを報告する、分からない部分を確認する、次回は手順を書いておくなど、具体的な対処方法を知っていれば、次の行動につなげやすくなります。
放デイでも、活動が思うように進まなかったときに、ただ「失敗だったね」で終わらせるのではなく、本人と一緒に振り返ることが大切です。
「どこで困ったのかな?」
「次はどうしたらやりやすいかな?」
「手伝ってもらうとしたら、何をお願いしたいかな?」
こうした問いかけを通して、次に試せる方法を一緒に考えていきます。
もちろん、失敗の経験を積ませること自体が目的ではありません。本人が安心して挑戦できる環境を整え、必要な支援を受けながら、少しずつ対処方法を身につけていくことが大切です。
失敗を責められる経験ばかりではなく、「失敗しても、次の方法を考えればいい」と感じられる経験を積むこと。
それは、将来、新しい仕事や環境に挑戦するときの支えになります。
4.「好き」や「得意」が、未来の選択肢を広げる
将来の仕事について考え始めると、「何が仕事になるのだろう」と、つい職業に結びつく能力を探してしまいがちです。
しかし、中高生の段階で、将来の仕事を一つに決める必要はありません。
まずは、本人が何に興味を持ち、どんな活動を楽しみ、どのような場面で力を発揮できるのかを知ることが大切です。
例えば、
- ゲームが好きで、操作方法や攻略法を詳しく調べる
- パソコンが好きで、文字入力や画像づくりに集中できる
- 絵を描くことが好きで、細かな作業を楽しめる
- 機械や道具に興味があり、仕組みを知りたがる
- 決まった手順で作業を進めることが得意
こうした興味や得意なことは、将来の学びや仕事を考える際のヒントになるかもしれません。
放デイでも、パソコン活動や創作活動、作業活動などを通して、子どもたちがさまざまな経験に触れる機会をつくることができます。
そのなかで、「これなら楽しく取り組める」「こういう作業は得意かもしれない」と、自分について知ることができます。
ただし、好きなことがそのまま職業になるとは限りません。好きな活動と、仕事として取り組むことでは、求められる条件が異なる場合もあります。
それでも、自分の興味や得意なことを知っているのは、大きな強みです。
自分に合った環境や仕事を考えるときにも、その理解が役立ちます。
5.家庭でできる「働く力」を育てる小さな経験
働く準備は、特別な訓練だけで身につくものではありません。
家庭での何気ない生活にも、将来につながる経験がたくさんあります。
例えば、次のようなことです。
翌日の準備をする
必要な持ち物を確認し、準備する経験は、予定を意識する力や、見通しを持って行動する力につながります。最初はチェックリストを使ったり、家族と一緒に確認したりしても大丈夫です。
家のなかで役割を持つ
食器を並べる、洗濯物をたたむ、ペットの世話をするなど、家庭のなかで役割を持つことは、自分が誰かの役に立つ経験になります。
買い物を経験する
商品を探す、金額を確認する、店員さんに質問するなど、買い物にはさまざまな学びがあります。本人の状況に合わせて、家族と一緒に取り組むところから始めてもよいでしょう。
自分の希望や困りごとを伝える
「今日は疲れているから、少し休みたい」「このやり方が分からない」といった気持ちを伝えることも大切な経験です。
これらは、すぐに完璧にできる必要はありません。道具を使ったり、手順を分かりやすくしたり、家族が一緒に取り組んだりしても構いません。
大切なのは、子どもにすべてを任せることでも、できない部分をすぐに大人が代わることでもありません。
本人に合った方法で「自分でやってみた」「できた」「困ったときに相談できた」という経験を増やしていくこと。
その積み重ねが、自信や次の挑戦につながっていきます。
6.将来の進路は、本人に合った環境と一緒に考える
働くための準備を考えるとき、忘れてはいけないことがあります。
それは、本人だけが職場や社会に合わせるのではなく、本人の特性に合った環境や支援を考えることも大切だということです。
例えば、口頭で一度に多くの指示を受けることが苦手な人でも、手順書があれば落ち着いて作業できる場合があります。
急な予定変更に不安を感じる人でも、事前に説明を受けたり、相談できる相手がいたりすることで、安心して働ける場合があります。
働き続けるためには、本人の力を育てることに加え、どのような環境なら力を発揮しやすいのかを知ることも重要です。
中高生のうちから、学校や放デイ、進路に関わる支援機関などと相談しながら、本人の希望や得意なこと、必要な配慮について少しずつ整理していくとよいでしょう。
将来の進路は、必ずしも最初から一つに決める必要はありません。さまざまな選択肢を知り、経験しながら、本人に合った道を探していくことが大切です。
おわりに ~未来への土台は、今日の小さな一歩から~
働くための準備は、高校を卒業する直前に始めるものではありません。
中学生、高校生の今だからこそ、少しずつ育てていける力があります。
自分に合った方法で生活を整えること。
困ったときに人に相談すること。
うまくいかなかった経験から、次の方法を考えること。
自分の好きなことや得意なことを知ること。
そして、自分に合った環境や支援を見つけること。
どれも、すぐに身につくものではありません。だからこそ、日々の小さな経験を大切にしていきたいと思います。
将来、働くことを考えたときに必要なのは、何でも一人でできる完璧な能力ではありません。
自分のことを知り、困ったときには周りの力を借りながら、自分に合った方法で前に進んでいく力です。
放課後等デイサービスも、家庭も、学校も、それぞれの立場から子どもの成長を支えることができます。
今日できた小さなことが、数年後の「自分に合った場所で働けた」「安心して仕事を続けられた」という未来につながるかもしれません。
焦らず、比べず、一人ひとりのペースを大切に。
中高生の今だからこそ育てられる「社会で生きる力」を、子どもたちと一緒に積み重ねていきましょう。



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