子どもに何かを伝えるとき、私たちはつい「きちんと分かってほしい」という思いから、たくさんの言葉を使って説明してしまうことがあります。
「危ないから走らないでね」
「さっきも言ったけど、順番を守って、お友達が終わるまで待ってね」
「もう時間だから、おもちゃを片付けて、手を洗って、席について待っていてね」
大人からすると、どれも分かりやすく、丁寧な説明に思えます。
しかし、発達特性のある子どもの中には、一度にたくさんの言葉を聞くと、情報を整理することが難しくなり、何をすればよいのか分からなくなってしまう子もいます。
言葉の意味は理解できていても、複数の指示を覚えておくことが難しかったり、次に何をするのかを判断するまでに時間がかかったりすることもあります。
そこで大切になるのが、「言葉を削る」という工夫です。
言葉を減らすことは、説明を省略して子どもに我慢させることではありません。
子どもが理解しやすいように情報を整理し、「今、何をすればよいのか」が分かる伝え方に変えることなのです。
1.一度に伝えるのは、一つの行動から
子どもに複数の行動を促したいとき、私たちは一度にまとめて伝えてしまいがちです。
例えば、帰りの準備をしてほしい場面。
「おもちゃを片付けて、手を洗って、荷物を持って、玄関に並んでね」
これだけの言葉の中に、いくつもの行動が含まれています。
大人にとっては一連の流れでも、子どもにとっては、どこから始めればよいのか分かりにくい場合があります。
そんなときは、伝え方を次のように変えてみます。
- 「まず、おもちゃを片付けよう」
- 片付けができたら、「次は手を洗おう」
- 手を洗えたら、「荷物を持とう」
- 最後に、「玄関に並ぼう」
一つずつ伝えることで、子どもは目の前の行動に集中しやすくなります。
もちろん、すべての子どもに一つずつ指示する必要があるわけではありません。複数の指示を理解できる子には、まとめて伝えても問題ありません。
大切なのは、子どもが理解し、行動に移しやすい量に調整することです。
2.「ダメ」だけではなく、「どうすればよいか」を伝える
もう一つ意識したいのが、「してはいけないこと」だけで終わらせないことです。
例えば、次のような声かけです。
「走らないで!」
「叩いちゃダメ!」
「大きな声を出さないで!」
危険な行動を止めたり、周囲への配慮を促したりするために、必要な言葉です。
しかし、子どもによっては「やってはいけないこと」は分かっても、代わりに何をすればよいのかが分からないことがあります。
そこで、望ましい行動を具体的に伝えてみます。
| これまでの伝え方 | 変えてみたい伝え方 |
|---|---|
| 「走らないで」 | 「歩こう」 |
| 「叩かない」 | 「手は膝に置こう」 |
| 「大きな声を出さないで」 | 「小さい声で話そう」 |
| 「ふざけないで」 | 「椅子に座ろう」 |
| 「ちゃんとして」 | 「前を向こう」 |
「ちゃんとして」「落ち着いて」などの言葉は、大人には伝わりやすくても、子どもにとっては具体的な行動がイメージしにくいことがあります。
一方、「歩こう」「椅子に座ろう」といった言葉は、何をすればよいのかが明確です。
「やめてほしい行動」を伝えるだけでなく、「代わりにしてほしい行動」を伝える。
この小さな違いが、子どもの行動を変えるきっかけになることがあります。
3.興奮しているときほど、言葉を削る
子どもが怒っているとき、泣いているとき、気持ちが高ぶっているとき。
そんな場面では、大人も何とか状況を理解してもらおうと、一生懸命に説明したくなります。
「どうして怒っているの?」
「お友達も嫌な気持ちになるよ」
「そんなことをしたらダメでしょう」
「何回も言っているよね」
しかし、気持ちが大きく揺れているときは、普段なら理解できる言葉でも、受け止めることが難しくなっている場合があります。
そんなときに説明を重ねると、子どもがさらに混乱したり、気持ちが高ぶったりすることもあります。
まずは、安全を確保しながら、短く分かりやすい言葉で対応します。
例えば、
「いったん止まろう」
「ここで休もう」
「大丈夫。少し待とう」
「落ち着いたら話そう」
といった声かけです。
この場面で大切なのは、その場ですぐに反省させたり、すべてを理解させたりすることではありません。
まずは気持ちを落ち着け、安全に過ごせる状態をつくることを優先します。
そして、落ち着いてから、何があったのか、次はどうすればよいのかを一緒に振り返ります。
伝えるタイミングを選ぶことも、伝え方の大切な工夫です。
4.言葉だけで伝わらないときは、目で見て分かる工夫を
言葉を短くしても、なかなか行動につながらないことがあります。
そのときは、単純に言葉を減らすだけでなく、伝える方法そのものを見直してみましょう。
例えば、次のような工夫があります。
- 絵や写真を使う: 片付ける場所や、次に行う活動を目で見て確認できるようにする。
- 文字で示す: 短い言葉や手順を書いて、いつでも確認できるようにする。
- 実物を見せる: 片付ける箱や必要な道具を見せ、何をすればよいか分かるようにする。
- 手順を示す: 「①片付ける → ②手を洗う → ③席に座る」のように、行動の順番を見える形にする。
- 実際にやって見せる: 言葉で説明するだけでなく、大人が動作を示して伝える。
例えば、「準備してね」と言われても、何を準備すればよいのか分からない子どもがいるかもしれません。
そんなときは、準備する物の写真を見せたり、必要な物を一つずつ確認できるチェック表を使ったりすると、行動につながりやすくなることがあります。
言葉だけで理解することが難しいのであれば、目で見て理解できる方法を取り入れればよいのです。
子どもに合わせて伝え方を変えることは、特別なことではありません。
「言葉で伝える」ことにこだわらず、「伝わる方法」を探すことが大切です。
5.何度も伝えているのにできないときは、伝え方を振り返る
支援の現場では、「何回言ってもできない」「さっき説明したばかりなのに」と感じる場面があるかもしれません。
繰り返し伝えているのに行動につながらないと、子どもが話を聞いていないように感じたり、わざとやっているのではないかと思ったりすることもあるでしょう。
しかし、そんなときこそ、一度立ち止まって考えてみたいことがあります。
- 言葉が多すぎなかっただろうか。
- 一度にいくつもの指示を出していなかっただろうか。
- 「ちゃんと」「しっかり」など、曖昧な表現になっていなかっただろうか。
- 子どもがこちらの話に注目できる状態だっただろうか。
- 行動を始めるために、もう少し時間が必要だったのではないだろうか。
- 言葉以外の方法を使ったほうが、理解しやすかったのではないだろうか。
また、子どもが指示を理解していても、疲れや不安、周囲の音や人の多さなどによって、すぐに行動できない場合もあります。
そのため、できなかった理由を一つに決めつけず、子どもの様子や環境も含めて考えることが大切です。
「何回言ったら分かるの?」と伝える前に、「どう伝えたら分かりやすいだろう?」と考えてみる。
その視点の変化が、子どもへの関わり方を変える第一歩になります。
6.言葉を削ることは、子どもを急かすことではない
「言葉を削る」と聞くと、必要な説明まで省いてしまうように感じるかもしれません。
しかし、本当に大切なのは、言葉をただ短くすることではありません。
必要な情報を整理し、子どもが理解しやすい形で伝え、行動に移すまで待つことです。
短い言葉で伝えたあとには、子どもが考えたり、動き始めたりするための時間も必要です。
大人がすぐに答えを求めたり、何度も同じ指示を繰り返したりすると、子どもが自分で理解して行動する機会を妨げてしまうこともあります。
子どもが行動できたときには、
「できたね」
「自分で片付けられたね」
「歩いて移動できたね」
と、できたことを具体的に伝えましょう。
何ができたのかを明確に伝えることで、子ども自身も自分の行動を振り返りやすくなります。
もちろん、できなかったときも、すぐに叱る必要はありません。
指示の出し方を変えたり、手順を見せたり、一緒に取り組んだりしながら、できる方法を探していけばよいのです。
おわりに ―「伝える」から「伝わる」へ
子どもに分かってほしいと思うほど、私たちはたくさんの言葉を使ってしまうことがあります。
しかし、言葉が増えるほど、子どもにとって大切な情報が埋もれてしまうこともあります。
だからこそ、ときには言葉を一つ削る。
説明を一つ減らす。
指示を一つにする。
そして、子どもが理解して動き出すまで待つ。
それは、子どもへの説明を諦めることでも、必要な支援を減らすことでもありません。
子どもの特性やそのときの状態に合わせて、伝え方を工夫するということです。
大人が伝えたい言葉ではなく、子どもに届く言葉を選ぶ。
その小さな工夫が、子どもの安心感を高め、自分で考えて行動する力を育むことにつながっていきます。
「何度言ってもできない」と感じたときこそ、「どうすれば伝わるだろう?」と考えてみる。
そんな視点を、日々の支援の中で大切にしていきたいものです。



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