秋になると、体育祭や文化祭、合唱コンクール、校外学習など、普段の学校生活とは違った行事が増えてきます。
学校行事は、友達と協力したり、新しい経験をしたり、普段の授業とは違った一面を発揮したりできる大切な機会です。
一方で、発達障害のある中高生の中には、学校行事を楽しみにしている子もいれば、「行きたくない」「できれば参加したくない」と感じる子もいます。
保護者の方としては、「せっかくの行事なのだから楽しんでほしい」「みんなと一緒に参加してほしい」と思うこともあるでしょう。
しかし、本人が行事を苦手に感じる背景には、単なる「やる気の問題」ではなく、発達特性や環境によるさまざまな理由が隠れていることがあります。
今回は、発達障害のある中高生が学校行事を苦手に感じる理由と、家庭や学校、放課後等デイサービスなど、周囲の大人ができるサポートについて考えていきます。
1.なぜ学校行事が苦手になりやすいのか
学校行事では、普段の授業とは違う環境で活動したり、いつもとは異なるルールに対応したりする場面が増えます。
そのため、普段の学校生活では大きな問題がなくても、行事になると急に不安が強くなったり、疲れやすくなったりすることがあります。
ここでは、発達特性との関係から考えてみましょう。
ADHD(注意欠如・多動症)の特性から考える
ADHDのある子どもは、注意を向け続けることや、複数の情報を整理すること、行動を切り替えることなどに難しさを感じる場合があります。
学校行事では、普段の授業とは違い、予定が変更されたり、複数の指示を受けたりする場面が増えます。
例えば、体育祭では、
- 集合場所を確認する
- 先生の説明を聞く
- 自分の出番を覚えておく
- 競技が終わったら次の場所へ移動する
といった行動が必要になります。
周囲が慌ただしく動いている中で、これらを同時に把握することは、子どもによっては大きな負担になります。
また、競技まで長時間待つ必要があったり、急に自分の出番が来たりするなど、活動と待ち時間の切り替えも多くなります。
「今、何をすればいいのか分からない」「いつまで待てばいいのか分からない」という状態が続くと、落ち着かなくなったり、イライラしたりすることもあります。
こうした様子は、必ずしも行事に参加する意欲がないことを意味するわけではありません。必要な情報を整理したり、次の行動を予測したりすることに負担がかかっている可能性もあります。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性から考える
ASDのある子どもは、見通しを持ちにくい状況や、急な予定変更、曖昧な指示などに不安を感じる場合があります。
学校行事では、授業の時間割が変更になったり、普段使わない場所へ移動したり、たくさんの人が集まったりします。
いつもと違う状況が重なることで、「何が起こるのか分からない」という不安が強くなることがあります。
また、体育祭や文化祭では、
「もっと大きな声を出そう」
「みんなと一緒に盛り上がろう」
「周りに合わせて行動しよう」
といった声かけを受けることもあります。
しかし、本人にとっては、どの程度声を出せばよいのか、どのように振る舞えばよいのかが分かりにくい場合もあります。
本人なりに頑張って参加しているにもかかわらず、さらに行動を求められることで、負担が大きくなってしまうこともあるのです。
「何をすれば正解なのか分からない」「みんなと同じようにできない」という不安から、行事そのものを避けたくなることもあります。
なお、こうした困りごとは、すべての子どもに当てはまるわけではありません。同じ診断名があっても、得意なことや苦手なこと、不安を感じる場面は一人ひとり異なります。
大切なのは、診断名だけで判断するのではなく、目の前の子どもが何に困っているのかを具体的に理解することです。
2.「人が多い」「音が大きい」ことも大きな負担になる
学校行事では、普段の学校生活よりも多くの人が集まります。
体育館や校庭には大勢の生徒が集まり、応援の声や音楽、マイクの音、拍手など、さまざまな刺激が一度に入ってくることがあります。
音や光、におい、人との距離などに敏感な子どもにとっては、こうした環境そのものが大きな負担になる場合があります。
周囲から見ると「楽しい雰囲気」に感じられても、本人にとっては、
「音が大きくてつらい」
「人が多くて落ち着かない」
「どこを見ればいいのか分からない」
「ずっと周囲を気にしていて疲れる」
という状況になっているかもしれません。
また、周囲に合わせようと一生懸命に頑張ることで、その場では何とか過ごせても、帰宅後に強い疲れが出たり、イライラしやすくなったりすることもあります。
行事の前から「行きたくない」と訴える場合も、当日になって突然体調が悪くなる場合も、本人が感じている負担に目を向けることが大切です。
「せっかくの行事だから参加しよう」と促す前に、まずは何がつらいのかを一緒に確認してみましょう。
3.学校行事への不安を減らすためにできること
学校行事を少しでも安心して迎えるためには、事前に見通しを持てるようにすることが大切です。
「何をするのか」「どこへ行くのか」「いつ終わるのか」が分かるだけでも、不安が軽くなることがあります。
例えば、「体育祭に行くよ」とだけ伝えるのではなく、
- 何時に登校するのか
- 最初にどこへ集合するのか
- どの競技に参加するのか
- 自分の出番までどこで待つのか
- 休憩できる場所はあるのか
- 何時頃に終了するのか
といった情報を、本人に分かりやすい形で伝えておきます。
学校から配布されたプログラムや予定表を一緒に確認したり、会場の写真を見たりすることも役立ちます。
予定変更が苦手な子どもには、変更の可能性についても、分かる範囲で事前に説明しておくとよいでしょう。
また、本人が不安に感じていることを一緒に整理することも大切です。
「何が心配なの?」
と聞いても答えることが難しい場合には、
「音が大きいのが心配?」
「待っている時間が長いのが嫌かな?」
「みんなの前で発表することが不安?」
など、具体的な選択肢を示してみる方法もあります。
本人が感じている不安が分かれば、必要なサポートも考えやすくなります。
4.「全部参加する」だけが正解ではない
学校行事では、「最初から最後まで参加すること」が目標になりやすいかもしれません。
もちろん、友達と一緒に行事を経験することには、さまざまな学びがあります。
しかし、本人の特性や体調によっては、すべての活動に参加することが大きな負担になる場合もあります。
大切なのは、参加できたか、できなかったかだけで判断するのではなく、どのような環境や方法であれば、本人が安心して参加できるのかを考えることです。
例えば、
- 音が苦手な場合は、静かな場所で休憩できるようにする
- 人混みが苦手な場合は、混雑を避けて移動できるようにする
- 長時間の待機が苦手な場合は、待ち時間の過ごし方を決めておく
- 全体への指示が分かりにくい場合は、本人に個別に伝えてもらう
- 体力面の負担が大きい場合は、休憩や参加時間を調整する
といった工夫が考えられます。
また、本人の希望や学校の状況に応じて、「一部の活動に参加する」「自分の担当する活動を中心に参加する」「途中で休憩を取りながら参加する」など、参加方法を柔軟に考えることもできます。
こうした配慮は、行事への参加を諦めることではありません。
本人が無理をしすぎず、自分に合った方法で経験を積めるようにするための工夫です。
もちろん、参加を見合わせたほうがよい場合もあります。本人の気持ちや体調、安全面を踏まえながら、学校や家庭で相談して決めていきましょう。
5.家庭では、どのように関わればよい?
学校行事の前後は、本人の気持ちや疲れ具合を確認することも大切です。
行事を楽しみにしている子どもには、その気持ちを一緒に喜んであげましょう。
一方で、不安を感じている子どもには、無理に前向きな気持ちにさせようとするのではなく、まずはその気持ちを受け止めることが大切です。
例えば、
「何か心配なことはある?」
「どんなところが大変そう?」
「安心して参加するために、できそうな工夫はあるかな?」
といった声かけで、本人の考えを聞いてみます。
「行きたくない」と言われたときも、すぐに「どうして?」と問い詰めたり、「みんな参加するんだから」と説得したりするのではなく、何が負担になっているのかを一緒に考えてみましょう。
そして、行事が終わった後も、結果だけを聞くのではなく、本人が感じたことを振り返る時間をつくります。
例えば、
「今日は疲れた?」
「どの時間が一番大変だった?」
「楽しかったことはあった?」
「次に同じ行事があったら、どんな工夫があるとよさそう?」
といった質問が考えられます。
本人から「待っている時間が長くて疲れた」「人が多くて大変だった」という言葉が出てきたら、それは次回の支援を考えるための大切な情報です。
行事を楽しめたかどうかだけではなく、本人が自分の気持ちや困りごとに気づき、それを周囲に伝えられることも、大切な成長の一つです。
6.学校や放課後等デイサービスとの連携も大切
学校行事への参加について悩んだ場合には、家庭だけで解決しようとせず、学校や放課後等デイサービスなどの支援者と情報を共有することも大切です。
例えば、普段から本人が困りやすい場面や、安心して行動できる声かけの方法を共有しておくと、行事当日の支援を考えやすくなります。
具体的には、
- 予定や手順を事前に伝えると安心しやすい
- 一度に多くの指示を出すと混乱しやすい
- 疲れたときには静かな場所で休憩する必要がある
- 困っていても、自分から助けを求めることが難しい
- 口頭での説明に加えて、文字や写真があると理解しやすい
といった情報が役立ちます。
放課後等デイサービスでも、学校行事の経験を振り返りながら、「困ったときにはどうすればよいか」「疲れたときにはどう伝えるか」「自分に合った休憩方法は何か」などを一緒に考えることができます。
こうした経験を積み重ねることで、自分の特性を理解し、必要なときに周囲へ助けを求める力にもつながっていきます。
本人が安心して参加するためには、本人の努力だけに頼るのではなく、周囲の環境や支援方法を整えることも重要です。
おわりに ― 本人に合った参加の仕方を一緒に考える
学校行事は、普段とは違う環境や人間関係の中で活動するため、発達障害のある中高生にとって大きな負担になることがあります。
予定変更への対応、複数の指示、長い待ち時間、人の多さ、大きな音、友達との関わりなど、本人が苦手とする要素が一度に重なることもあります。
そのため、「行事が嫌い」「参加したくない」という言葉だけを見るのではなく、「何が負担になっているのか」「どうすれば安心して参加できるのか」という視点で考えることが大切です。
学校行事への参加方法は、一人ひとり違っていても構いません。
すべてに参加することだけを目標にするのではなく、本人の気持ちや体調を大切にしながら、その子に合った方法を探していきましょう。
学校行事は、楽しい思い出をつくるだけでなく、自分の得意なことや苦手なことを知り、周囲に助けを求める方法を学ぶ機会にもなります。
家庭、学校、放課後等デイサービスなどが連携し、本人の気持ちや特性に寄り添いながら支援することで、学校行事が少しずつ「不安なもの」から「自分なりの方法で経験できるもの」へと変わっていくかもしれません。
一人ひとりのペースを大切にしながら、安心して新しい経験に挑戦できる環境を整えていきましょう。



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