「とにかく褒めれば良い」という過度な「褒める子育て」の実践は、「条件付きの自己肯定感(褒められる自分には価値があるが、できない自分には価値がない)」や「評価依存(指示待ち・結果至上主義)」を引き起こすリスクがあります。
「褒めるだけでは育たない?」
――子どもの主体性と自己効力感を育む、本当に大切な関わり方――
子育てや療育の現場で、一度は耳にする「褒めて育てましょう」という言葉。
特に発達特性や障害のあるお子さまの支援では、「自己肯定感を高めるために、叱らずに褒める」という関わりが推奨される場面が多くあります。
しかし、現場やご家庭ではこんな悩みが絶えません。
- 「毎日『すごいね!』と褒めているのに、褒められないと行動しなくなってしまった」
- 「失敗を極端に怖がり、勝てるゲームや簡単なことしか挑戦したがらない」
- 「大げさに褒めても、どこか上滑りしていて本人に響いている感じがしない」
実は、子どもの内側から湧き出る「やってみたい(内発的動機づけ)」や「ありのままの自分でも大丈夫(無条件の自己肯定感)」を育むために必要なのは、評価としての「褒める」ではなく、存在や過程を「認める(描写・フィードバック)」関わりです。
1. 「評価する(褒める)」と「認める(実況中継・プロセス承認)」の違い
心理学や作業療法の観点から、大人の声かけは大きく2つに分けられます。
| 区分 | 声かけの例 | 子どもの受け取り方 | メリット・デメリット |
| 褒める (外部からの評価) | 「すごいね!」「100点なんて偉い!」「一番だね!」 | 「成果を出したから愛された」「期待に応えなきゃ」 | 【短期的効果】 喜んで行動する 【リスク】 失敗を恐れる、評価依存になる |
| 認める (事実の記述・感情の共有) | 「最後まで諦めずに描いたね」「楽しそうだね」「ここ工夫したんだ」 | 「自分の努力を見ていてくれた」「そのままの自分でいいんだ」 | 【長期的効果】 自立心・挑戦する心が育つ 【効果】 条件なしの安心感が生まれる |
「すごい」「偉い」といった形容詞は、大人の「価値基準による評価」です。評価ばかりに晒されると、お子さまは「成果を出せない自分には価値がない」と感じてしまうことがあります。
2. 褒められ依存から脱却する「3つの承認アプローチ」
「何と言って声をかければいいか分からない」という時は、以下の3つのパターンを意識してみてください。
① 事実をそのまま伝える「実況中継(ビジュアル・フィードバック)」
評価を交えず、目に見えた事実をそのまま言葉にします。
- 「靴を揃えて置けたね」
- 「青と赤のブロックを交互に積んだんだね」
- 効果: 「大人が自分をしっかり観察してくれている」という安心感が生まれます。
② 「結果」ではなく「プロセス(過程・工夫)」に光を当てる
- 「何度も倒れたのに、諦めずに積み直していたね」
- 「テストの点数もだけど、今週毎日机に向かっていた姿が素敵だったよ」
- 効果: 失敗しても「努力したプロセス」自体に価値があると学び、折れない心(レジリエンス)が育ちます。
③ 自分の主観・感謝を伝える「I(アイ)メッセージ」
「あなたが〇〇だから偉い(Youメッセージ)」ではなく、「私がどう感じたか(Iメッセージ)」を伝えます。
- 「片付けてくれて、お母さんすごく助かったよ。ありがとう」
- 「あなたが楽しそうに笑っていると、パパも嬉しくなるよ」
- 効果: 人の役に立ったという「貢献感」や「社会的承認」が育ちます。
3. 【事例】「褒められないと動けない」Aさんのアプローチ
放課後等デイサービスに通うAさんは、課題を1行書くごとに「これでいい?」「私、偉い?」と確認し、スタッフの承認がないと作業を中断していました。
- 支援の工夫:
- 「偉いね」という雑な評価を減らし、「10行目まで集中して書けたね」と事実をフィードバックした。
- 「Aさんは、この出来栄えを見てどう思う?」と自己評価を促す質問を投げかけた。
- 変化:最初は答えに戸惑っていたAさんですが、少しずつ「ここは上手に書けたと思う」「ここはちょっと曲がっちゃった」と自分の軸で振り返られるようになり、大人の顔色を伺わずに課題を進められるようになりました。
4. 叱る場面・境界線を伝える場面での工夫
「褒める子育て」を意識するあまり、危険なことや他害行為に対しても叱れなくなってしまうケースがあります。
子どもを健全に育てるためには、「無条件の受容(あなたの存在は大好き)」と「行動の枠組み・境界線(この行動はダメ)」のふたつが揃う必要があります。
- 人格否定を避け、行動を限定して伝える:
- ✕「なんであなたはいつも乱暴なの!」(人格否定)
- ◯「お友達を叩く行動はダメ。手ではなく言葉で『貸して』と言おうね」(行動の指摘+代替案)
- 安全とマナーは毅然と伝える:命に関わること(飛び出しなど)や人を傷つける行為は、大げさに感情的になるのではなく、低いトーンで短く直感的に「ダメ」と伝え、その後に「理由」と「どうすべきだったか」をセットで教えます。
5. 完璧な親・指導者を目指さなくていい
「正しい褒め方をしなきゃ」「感情的に怒ってしまった」と自分を責める必要はありません。
大人が失敗したときに「さっきは大きな声を出してごめんね。疲れていてイライラしちゃったんだ」と素直に謝る姿勢を見せることも、お子さまにとっては「人間は完璧じゃなくていい」「失敗しても挽回できる」という最高の手本(モデリング)になります。
おわりに
子どもが本当に求めているのは、過剰な称賛やメダルではありません。
「自分の良いところも、失敗したところも、そのまま見守ってくれている」という静かで揺るぎない安心感です。
「すごいね!」と言いそうになったら、一呼吸置いて「頑張ってやってたね」「見てたよ」と微笑みかけてみる。そんな日々の小さな「見つめる関わり」の積み重ねが、お子さまが一生自分を信じて歩んでいくための強い土台となります。



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