コミュニケーション=会話、と思っていませんか?
私たちは普段、「ちゃんと話して」「言葉で説明して」「黙っていないで何か言って」といった言葉を何気なく使っています。多くの人にとって、コミュニケーションとは**「話すこと」「言葉のやり取り」**が中心にあります。
しかし実際には、コミュニケーションの形はとても多様です。
- 表情
- 視線
- 身振り・手振り
- 文字
- 絵や写真
- 指差し
- 行動
発達障害、知的障害、聴覚障害、言語障害、精神障害などがある人にとっては、「話す・聞く」こと自体が難しい、あるいは大きな負担になることも少なくありません。それでも私たちはつい、**「話せない=伝えられない」「会話が苦手=コミュニケーションが苦手」**と捉えてしまいがちです。
コミュニケーションがうまくいかない理由は「能力」ではない
コミュニケーションがうまくいかない場面に出会うと、「この人はコミュニケーション能力が低い」と評価されてしまうことがあります。しかし実際には、やり方が合っていないだけというケースが非常に多く見られます。
例①:言葉が出にくい子ども
頭の中では理解していても、
- 質問される
- 考える
- 言葉を選ぶ
- 話す
というプロセスに時間が必要な子もいます。その状態で「早く答えて」「なんで黙っているの?」と言われると、混乱が強まり、余計に言葉が出なくなってしまいます。
例②:空気や表情が読み取りにくい人
- 冗談が冗談として伝わらない
- 暗黙のルールが分かりにくい
これは「気が利かない」「配慮がない」のではなく、情報の受け取り方が異なる特性によるものです。
コミュニケーションの多様な形
話す・聞く(音声コミュニケーション)
もっとも一般的な方法ですが、実は最も負荷が高い場合もあります。
- 相手の言葉を聞く
- 意味を理解する
- 返答を考える
- 適切な言葉で返す
これらを同時に処理する必要があり、特性によっては大きなエネルギーを消耗します。
書く・読む(文字コミュニケーション)
文字の方が理解しやすい人も多くいます。
- LINEやメールだと落ち着いて考えられる
- 指示は紙に書いてもらえると助かる
- 黒板よりプリントの方が理解しやすい
特に発達障害のある人にとって、文字は情報を整理するための大切な支えになります。
視覚コミュニケーション
- 写真
- イラスト
- ピクトグラム
- スケジュール表
視覚情報は「全体像を一度に把握できる」「何度も見返せる」という大きな強みがあります。
身振り・行動によるコミュニケーション
- 指差し
- うなずき
- 首を振る
- 行動で示す
言葉がなくても、意思表示は十分に可能です。これらも立派なコミュニケーションの形です。
発達障害とコミュニケーションの多様性
ASD(自閉スペクトラム症)
- 曖昧な表現が分かりにくい
- 冗談や比喩が伝わりにくい
- 視線を合わせるのが苦手
→ 具体的で分かりやすい言葉が助けになります。
ADHD
- 話が途中で飛びやすい
- 聞いている途中で注意がそれやすい
→ 短く区切った説明やメモの併用が効果的です。
知的障害
- 抽象的な言葉が理解しにくい
- 一度に多くの情報を処理できない
→ 実物・写真・繰り返しが理解につながります。
「話せない=分かっていない」ではない
返事ができない、言葉が出てこない、沈黙が続く——それでも、内容は理解している・気持ちは存在しているというケースは多くあります。
「反応がない=無関心」「答えられない=分かっていない」と決めつけないことが重要です。
家庭・学校・職場での工夫(事例)
事例①:学校で指示が通らない
口頭指示では動けなかった子が、プリントにするとスムーズに行動できた。
→ 伝え方を変えただけで“できる子”になった
事例②:職場で会話が続かない
雑談が苦手で孤立していた人が、チャットでは積極的に意見を出せた。
→ 場を変えることで力を発揮できた
事例③:返事をしない子ども
声での返事は難しいが、カード選択で意思表示ができた。
→ 返事の形を広げるだけで伝わった
コミュニケーションは「合わせ合うもの」
コミュニケーションは、どちらか一方が努力するものではありません。
- 話す側がゆっくりにする
- 聞く側が文字を使う
- 周囲が待つ
- 方法を選べるようにする
それだけで、やり取りはぐっと楽になります。
まとめ
- コミュニケーションは「話す」だけではない
- 人によって使いやすい方法は異なる
- 伝わらない原因は能力ではなく方法のミスマッチ
- 文字・視覚・行動も立派なコミュニケーション
- 合わせ合うことで理解は広がる
コミュニケーションの多様性を知ることは、人の違いを尊重する第一歩です。


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