〇 起立性調節障害とは
起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)とは、自律神経の働きがうまく調整されず、主に立ち上がったときの血圧や心拍数の調節に支障が生じる疾患です。立位になると血圧が十分に保てなかったり、心拍数が過剰に上昇したり、調節に時間がかかったりすることで、さまざまな体調不良が現れます。
この疾患は自律神経の不調が中心であるため、身体的要因だけでなく、精神的・環境的要因も複雑に関与して発症すると考えられています。特に、小学校高学年から中学生に多くみられ、この時期は第二次性徴期と重なり、体が急激に大人へと変化していく時期でもあります。こうした身体的変化は自律神経系にも影響を及ぼし、循環器系の調節が不安定になりやすいとされています。
また、「まじめ」「責任感が強い」「周囲に気を遣いやすい」タイプの子どもが発症しやすいといわれることがありますが、これは性格の問題ではなく、ストレスをため込みやすい環境的・心理的背景が関係していると考えられます。重要なのは、起立性調節障害は“気持ちの問題”ではなく、れっきとした身体の病気であり、「頑張れば治る」「甘え」などと捉えてはいけないという点です。
〇 主な症状
起立性調節障害の症状は多岐にわたり、思春期の健常な子どもでも一時的に経験することがあります。そのため、すべてを病気として扱う必要はありませんが、日常生活や通学に支障が出ている場合には、医療機関での評価が必要です。
代表的な症状には、
・立ち上がったときのふらつき、立ちくらみ
・全身の強い倦怠感
・頭痛、腹痛、吐き気
・動悸、息切れ
・朝起きられない、午前中に体調が悪い
などがあります。
これらの症状は他の疾患と比べて特異性が低く、外見からは分かりにくいことが特徴です。特に小学校高学年の子どもは、自分の体調不良をうまく言葉で説明できないことも多く、「なんとなくしんどい」「気持ち悪い」としか伝えられない場合があります。
そのため、早期発見・早期対応のためには、保護者が日頃から子どもの様子をよく観察し、体調の変化や生活リズムの乱れに気づいてあげることが重要です。
〇 小学生が起立性調節障害を発症する背景
小学校高学年は、中学校進学への不安、クラス替え、転校、塾や習い事の増加など、環境の変化が多い時期です。これらの変化は、子どもにとって大きなストレスとなり、自律神経のバランスを崩すきっかけになることがあります。
子どもは大人に比べて精神的な成熟が十分ではないため、同じ出来事でもストレスの影響を受けやすく、自律神経の調整が乱れやすい傾向があります。ストレスによって交感神経が過度に刺激されると、自律神経のバランスが崩れ、症状が悪化する可能性があります。
また、女児の場合は初潮を迎える時期とも重なります。月経に伴うエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの大きな変動は、脳の視床下部に影響を与えます。視床下部は自律神経を調節する重要な役割を担っているため、ホルモン変化が結果的に自律神経の乱れにつながることがあります。
このように、小学校高学年から中学生にかけては、身体的・心理的・環境的要因が重なり合い、起立性調節障害を発症しやすい時期であることを理解しておく必要があります。
〇 学校生活への影響
起立性調節障害の子どもにとって大きな問題となるのが、通学の困難さです。特に朝は症状が強く出やすく、起床や登校が難しくなるケースが多く見られます。その結果、欠席や遅刻が増え、学習の遅れや友人関係への不安につながることがあります。
小学生にとって授業は、中学校以降の学習の基礎となる重要な時期です。通学が難しい状況が続く場合には、家庭学習の工夫や、学校との連携(課題の調整、出席扱いの配慮など)が必要になることもあります。
〇 不登校になった場合の考え方
起立性調節障害は、発症から1年後には約半数、2~3年後には約8割が自然に改善するといわれています。しかし、成長期の子どもにとって、その数年間は非常に長く、心身ともに負担の大きい時間となります。
保護者は、「学校に行かせること」だけを目標にするのではなく、子どもの体調回復と安心できる生活を最優先に考えることが大切です。学校と相談しながら、学習面や人間関係への配慮を受けることで、子どもの不安を軽減することができます。
それでも症状が改善しない場合や、生活に大きな支障が出ている場合には、医療機関への受診を必ず検討しましょう。
〇 治療と日常生活での支援
起立性調節障害は、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って起こることが多いため、一つの方法だけで改善を目指すのは難しいとされています。日常生活の改善、食事療法、運動療法、必要に応じた薬物療法などを組み合わせた包括的な支援が重要です。
日常生活では、
・規則正しい生活リズム
・十分な睡眠(目安として6~7時間以上)
・夜遅くまでのスマートフォンやゲームの使用を控える
・適度な運動習慣
・栄養バランスのとれた食事
などを意識することが、自律神経への負担を軽減するとされています。
〇 周囲の環境を見直すことの大切さ
学校や家庭での人間関係、学習面の不安、将来への漠然とした心配事なども、気づかないうちに大きなストレスとなっていることがあります。すべてを一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、友人や学校、児童支援機関、精神保健福祉センターなどの専門機関に相談することも大切な選択肢です。
また、「将来が不安」「何がつらいのか分からない」といった漠然とした悩みについては、紙に書き出すなどして“見えない不安を見える形にする”ことが、気持ちの整理につながる場合もあります。
起立性調節障害は、周囲の正しい理解と適切な支援があれば、回復を目指すことのできる疾患です。子どもが安心して過ごせる環境を整え、長い目で寄り添っていくことが何より大切です。

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