【学校と放課後等デイサービス】役割の違いと連携による相互補完性

障がいのあるお子さんの保護者の方々から、「どちらも子どもを預かってくれる場所だけど、どう使い分けたらいいの?」といったご質問をいただくことは少なくありません。

また、それぞれの現場で働く支援者の方々にとっても、互いの役割を深く理解し、連携を強化することは、お子さんへのより質の高い支援を提供するために不可欠です。

学校と放デイは、障がいのあるお子さんの成長を支える上で、どちらも欠かせない重要な役割を担っています。しかし、その目的や提供する支援内容は大きく異なります。

この記事では、それぞれの役割の違いを明確にし、両者がどのように連携し、相互に補い合うことで、お子さんの総合的な発達を促すことができるのかについて、障がい福祉の専門家としての視点から詳しく解説していきます。

目次

1. 学校の役割:教育の場としての基盤

学校は、子どもたちが義務教育を受ける主要な場であり、学習指導要領に基づいた教育活動を通じて、知識や技能、考える力、表現する力などを育むことを目的としています。障がいのあるお子さんに対しては、特別支援教育の視点から、それぞれのニーズに応じた教育的支援が提供されます。

(1) 学校の主な役割と提供される支援

① 学習の機会の提供と基礎学力の定着: 読み書き計算といった基礎学力の習得から、各教科の専門的な学習まで、系統的な教育カリキュラムが提供されます。

算数の授業で掛け算の概念を学ぶ、理科の実験を通じて科学的思考を養う、国語で物語文の読解力を高める、など。

② 集団生活を通じた社会性の育成: クラスメイトや教師との関わりの中で、ルールを守ること、協力すること、他者を尊重することなど、集団の中で生きるための社会性を学びますます。

 給食当番で協力して配膳を行う、休み時間に友達と遊ぶ中で順番を守る、係活動を通じて責任感を学ぶ、など。

③ 発達段階に応じた心身の発達支援: 体育の授業や保健指導を通じて、健康な体づくりや、身体能力の向上を促します。

④ 将来を見据えた進路指導: 高等学校や就職など、卒業後の進路選択に関する情報提供や相談支援を行います。

⑤ 特別支援教育の提供:

  • 通級指導教室: 通常学級に在籍しながら、専門的な指導を個別に受ける場です。
  • 特別支援学級: 障がいの種類や程度に応じて編成され、少人数で個別の教育課程に基づいた指導を行います。
  • 特別支援学校: 障がいの特性に応じた専門的な教育を行います。

  個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成:

  お子さん一人ひとりのニーズに応じた目標設定と支援内容を明確にし、学校全体で共有し、計画的な支援を行います。

  たとえば…LD(学習障害)のあるお子さんに対し、視覚的な情報提示を増やす、板書をデジタル化する、
  漢字の練習方法を工夫するなど、学習面での合理的配慮を提供するなど。

(2) 学校の強みと限界

【強み】

  1. 義務教育の根幹を担う、専門性の高い教員の配置: 各教科の専門性を持つ教員が体系的な学習を提供します。
  1. 集団の中での学びと社会性の涵養: 同年代の子どもたちとの日常的な関わりの中で、自然な社会性を育む機会が豊富です。
  1. 地域における包括的な支援体制: スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、関係機関との連携を通じて包括的な支援を行います。

【限界】

  • 時間の制約: 授業時間や学校行事など、決められたカリキュラムがあるため、個々の子どもに特化した支援の提供には時間的な制約があります。
  1. 人員配置の制約: 一人当たりの教員が受け持つ子どもの数が多く、個別の特性にきめ細かく対応するには限界がある場合があります。
  1. 教育目標が主軸: 学習指導が主要な目的であるため、生活スキルや余暇活動といった、学校教育の枠外の支援は手薄になりがちです。

2. 放課後等デイサービスの役割:生活・発達支援の専門性

放課後等デイサービスは、障がいのある就学児(小学校1年生から高校3年生まで)が、放課後や学校休業日に利用できる福祉サービスです。学校教育とは異なり、一人ひとりの発達段階や障がいの特性、家庭環境に応じた個別支援計画に基づき、自立支援や生活能力の向上、集団生活への適応支援、居場所づくりなどを目的としています。

(1) 放課後等デイサービスの主な役割と提供される支援

① 生活能力向上のための支援: 日常生活における基本的な動作や、社会で生きていくための実践的なスキルを身につけるための支援を行います。

 買い物に行く練習、公共交通機関の利用練習、お金の計算、身だしなみを整える、料理の手伝い、掃除、など。

② 集団適応能力の向上: 小集団での活動を通して、コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力などを育みます。

 ボードゲームや集団遊びを通じてルールを守る、順番を待つ、勝ち負けを受け入れる、友達と意見を調整する、など。

③ 個別機能訓練: 必要に応じて、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職が個別的な訓練を提供します。

 姿勢保持のための体幹トレーニング、手先の巧緻性を高める作業、発音の練習、コミュニケーションの取り方の練習、など。

④ 居場所づくりと余暇活動の支援: 安心できる環境の中で、子どもたちが自由に過ごせる時間を提供し、多様な余暇活動の機会を提供します。

 創作活動(絵画、工作)、音楽活動、スポーツ、クッキング、遠足、季節のイベントなど、多様な体験を通じて、子どもの興味関心を広げ、自己肯定感を育みます。

⑤ 自立に向けた支援: 将来の就労や地域生活を見据え、社会参加に必要なスキルや自己管理能力を育む支援を行います。

 進路相談、就労に関する情報提供、簡単な作業訓練、など。

⑥ 保護者支援: 保護者からの相談に応じたり、情報提供を行ったりすることで、家庭での養育力の向上をサポートします。

(2) 放課後等デイサービスの強みと限界

【強み】

  • 個別支援計画に基づいたオーダーメイドの支援: 一人ひとりのニーズに合わせたきめ細やかな支援が可能です。
  1. 生活スキル・社会性スキルの実践的な習得: 日常生活や遊びを通じて、生きたスキルを身につける機会が豊富です。
  1. 多様な専門職との連携: 保育士、児童指導員だけでなく、リハビリ専門職など、多職種が連携して支援を行う事業所も増えています。
  • 放課後の居場所提供と保護者の負担軽減: 保護者の就労支援や、休息の確保に繋がります。
  • 心理的安全性: 障がい特性を理解してくれるスタッフや仲間と過ごすことで、学校では感じにくい安心感や自己肯定感を得やすい環境です。

【限界】

  • 学習指導の専門性: 基本的に学習塾のような学習指導は行いません。学校の学習の補完は一部行いますが、専門的な学習指導は学校が主です。
  • 事業所による質の違い: 事業所の運営方針やスタッフの専門性によって、提供されるサービスの質にばらつきがある場合があります。
  • 利用時間の制約: 原則として放課後や長期休暇中の利用であり、学校教育の時間帯をカバーするものではありません。

3. 学校と放課後等デイサービスの「相互補完性」と連携の重要性

学校と放デイは、それぞれ異なる強みと役割を持っています。これらを別々に捉えるのではなく、〈 お子さんを中心に据えて、両者が密に連携し、互いの強みを活かし弱みを補い合う「相互補完性」 〉を意識することが、お子さんの成長にとって最も重要です。

連携による具体的なメリット

多角的な視点からの情報共有: 学校での様子(学習面、集団行動、友達関係など)と、放デイでの様子(生活スキル、余暇活動、個別支援での進捗など)を共有することで、お子さんの全体像をより正確に把握できます。

一貫性のある支援の提供: 学校で取り組んでいる学習内容を放デイで復習したり、放デイで練習した社会性スキルを学校での集団生活で実践したりと、それぞれの場での学びが繋がり、効果が最大化されます。

 学校の先生から「授業中に席を立ってしまうことが多い」と相談を受けた放デイのスタッフが、放デイでの活動中に座って集中する時間を少しずつ増やし、その成功体験を学校にフィードバックする。学校では、その情報をもとに席の配置を工夫したり、休憩のタイミングを個別で調整したりする。

個別の教育支援計画・個別支援計画の充実: 学校の「個別の教育支援計画」と放デイの「個別支援計画」が連携することで、より包括的で一貫性のある支援計画を策定し、実行することができます。

保護者への総合的なサポート: 学校と放デイが連携することで、保護者は両機関から一貫した情報やアドバイスを得られ、安心して子育てに取り組むことができます。

効果的な連携を促すためのポイント

① 定期的な情報交換の機会を設ける:

・連絡帳や連絡ノートの活用: 日常的な情報共有の基本です。

・担当者会議・個別ケース会議の開催: 必要に応じて、学校の担任教師や特別支援教育コーディネーター、放デイの管理者や児童指導員、保護者などが一堂に会し、お子さんの状況や支援方針について話し合う場を設けます。

・見学や体験の実施: 学校の先生が放デイの活動を見学したり、放デイのスタッフが学校の様子を見学したりすることで、互いの理解が深まります。

② 保護者が「架け橋」となる: 保護者の方が、学校と放デイそれぞれの状況を把握し、両者に積極的に情報提供を行うことで、連携のハブとなることができます。

③ 共通の目標を持つ: お子さんの「こうなってほしい」という将来像を、学校と放デイ、そして保護者が共有し、それぞれの立場でどのような支援ができるかを明確にする。

4. 最後に:子どもの未来を拓く「チーム支援」

学校と放課後等デイサービスは、それぞれが持つ専門性と役割を尊重しながら、連携することで、障がいのあるお子さんの発達を多角的に支援できる「チーム」となります。

単なる「預かり場所」として利用するのではなく、それぞれの特性を理解し、相互に連携を深めることで、お子さんへの支援は格段に質の高いものになるでしょう。

障がい福祉のプロフェッショナルとして、私たちは保護者の方々が安心してそれぞれのサービスを利用できるよう、情報提供と連携の強化に努める必要があります。

そして、学校関係者の方々もまた、放デイが提供する生活支援の重要性を理解し、連携の窓口を広げていくことが求められます。

お子さんの無限の可能性を信じ、学校と放デイが手を携え、保護者と共に歩む「チーム支援」を推進していくことこそが、子どもの未来を拓く鍵となります。このブログ記事が、その一助となれば幸いです。

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