場面緘黙(ばめんかんもく)のお子さんが困りやすい場面と支援のヒント

目次

はじめに:場面緘黙とは?

場面緘黙(選択性緘黙)は、特定の場面や人前で極度に緊張してしまい、話したくても話せなくなる状態を指します。家では普通に話せるのに、学校や公共の場ではまったく声が出なくなるなど、環境によって大きく差が出るのが特徴です。

これは単なる「恥ずかしがり屋」や「人見知り」とは異なり、不安障害の一種と考えられています。本人は「話したい」と思っているのに話せないことが多く、その葛藤の中で日々を過ごしています。

児童福祉の現場では、発見が遅れることも多いため、早期の気づきと適切な支援が非常に重要です。

どんな場面で困りごとが起きるのか?

先生や近所の人に声をかけられたとき

【実例】

小学1年生のAくんは、登校時に地域の見守りボランティアの方から「おはよう」と声をかけられても、顔をこわばらせ無言で立ち尽くしてしまいます。先生が「どうしたの?」と声をかけても、目を見てうなずくだけで声は出ません。

このように、本人は返答しようと意志はあるものの、身体がこわばり声が出せなくなることがあります。

その結果、「返事をしない失礼な子」と誤解されたり、「意思がない」と判断されてしまうことも少なくありません。

● 友達との遊びの中で

【実例】

放課後に友達と公園に集まって遊ぶBちゃん。鬼ごっこやブランコなどの活動には積極的に参加できますが、友達から「何して遊ぶ?」と聞かれた途端に無言に。

仕方なく友達は別の子と遊び始め、Bちゃんは離れて1人で遊び始めました。「話す気がない」と受け取られてしまい、結果的に孤立してしまうということが起こります。

● 発表や人前での活動

【実例】

小学2年生のCくんは、国語の時間に音読をする順番が回ってきたとき、教科書を見たまま固まってしまいました。先生が「読んでいいよ」と声をかけても全く反応がなく、数分後に涙をこぼして保健室に行くことになりました。

発表など「注目される場面」は、場面緘黙のお子さんにとって非常に強いプレッシャーとなります。うまく話せなかった経験がトラウマとなり、その後の学校生活にも影響を与えることがあります。

● 体調不良やトイレの訴え

【実例】

Dちゃんは給食後、お腹が痛くなってトイレに行きたかったのですが、先生に「トイレに行きたい」と言えずに我慢し続け、結果的におもらしをしてしまいました。周囲の子どもたちからからかわれるようになり、登校しぶりが強まりました。

このように、自己表現の困難さが健康や人間関係に影響を及ぼすことがあります。

適切な支援の重要性と放置によるリスク

場面緘黙は放っておくと、以下のような二次的問題に発展するリスクがあります:

  1. 自己肯定感の低下
  2. 対人関係への不安・苦手意識
  3. 不登校や引きこもり
  4. 二次的な不安障害や抑うつ傾向

【実例】

中学生になったEくんは、小学校低学年の頃から場面緘黙の傾向がありましたが、支援がなされないまま成長しました。中学ではグループ活動やプレゼンが増え、「話さなければならない」場面が多くなり、学校に行くこと自体が苦痛になっていきました。最終的には不登校になり、心療内科に通うようになりました。

効果的な支援方法:行動療法を中心に

◎ 段階的エクスポージャー法

【実例】

Fちゃんは家族の前では話せるけれど、学校では沈黙してしまう状態でした。家庭で声を録音し、学校で担任の先生がそれを聞くことから始め、徐々に教室内で小さな声で返事をするところまで進みました。

このように「無理なく、少しずつ」挑戦できるよう段階を設定することで、成功体験を積み重ねていく支援法です。

◎ トークンエコノミー法

できたことを視覚化し、達成感を育む手法です。例えば、1回あいさつができたらシールを1枚貼るなど。

【実例】

Gくんは、友達に「ありがとう」と言えた日に星のシールを1つもらうシステムを導入し、話すことに対する前向きな気持ちを育てました。

◎ シェイピング法(発話までのステップ練習)

【例】

  • ガムを噛む
  • 息を吹く遊び(シャボン玉、笛など)
  • 無声音(声帯を使わない) → 声あり
  • 質問カード、音読、しりとりなどを通じて楽しみながら練習

子どもの好みに応じて、自然に発声しやすい活動を取り入れることがポイントです。

支援の土台:家庭と学校の協力

家庭と学校が連携し、「話さなくてもよいけど、話しても大丈夫」という安心感を共有することが支援の出発点です。

【実例】

Hちゃんの場合、先生が「話さなくてもいいよ、ジェスチャーやうなずきでOK」と伝え続けたことで、次第に安心感を得て、半年後には友達との小声のやりとりができるようになりました。

その他の支援:不安へのケアとスキル育成

● SST(ソーシャルスキルトレーニング)

「困ったときにどう伝えるか」「助けてほしいときはどうするか」などをロールプレイを通して学びます。

● 身体・認知的アプローチ

呼吸法、筋弛緩法、ヨガ、マインドフルネス

認知行動療法による思考の再構成

【実例】

Iくんは、深呼吸を習慣にしたことで、朝の登校前に気持ちが落ち着きやすくなり、学校での緊張感が少しずつ和らいできました。

おわりに:子どもにとっての「安心基地」づくりを

場面緘黙の子どもたちは、「話せない自分」に対して罪悪感や劣等感を抱えていることもあります。

私たち大人は、言葉が出る・出ないだけで子どもの価値を判断せず、「話せなくても、あなたは大切な存在だよ」と伝えられる存在でありたいものです。

子どもが「安心できる環境」で「自分のペース」で声を出せるようになるまで、焦らず・寄り添いながら支援を続けましょう。

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