「こだわり」は一見すると「頑固さ」や「我慢の足りなさ」に見えてしまいがちですが、発達特性のあるお子さまにとっては「荒波のような世界で自分を守るための『救命胴衣』や『安全基準』」です。
「こだわり」はなくすべき?
――子どもの「譲れない」を理解し、安心のグラデーションを作る支援――
「うちの子、こだわりが強くて……」
「このままだと、将来社会に出たときに苦労するのでは?」
放課後等デイサービス(放デイ)や療育の現場でも、保護者の方からよくいただくご相談です。
- 決まった道順でしか学校に行けない
- いつも同じ服・同じ靴しか着たがらない
- 予定が1分でもずれると激しいパニックになる
- 特定のおもちゃ・ジャンルだけに没頭し続ける
こうした姿を見ると、つい「こだわりを無くさなきゃ」と矯正したくなるかもしれません。しかし結論から言えば、「こだわりそのもの」を無理に消し去る必要はありません。
大切なのは、「なぜそのこだわりに固執するのか」というSOSや心理的背景を解読し、お子さまが安心して過ごせる選択肢(バリエーション)を少しずつ広げてあげることです。
1. なぜ「こだわり」が生まれるのか?(脳と心理のメカニズム)
定型発達のお子さまにとっての「こだわり」は「好み」の延長であることが多いですが、発達特性(特にASD傾向)のあるお子さまにとってのこだわりは、「世界に対する強い不安や恐怖から自分を守る防衛本能」です。
- 「見通しのなさ」に対する予期不安:「次に何が起こるか分からない」状態は、彼らにとって暗闇の中を歩くような恐怖です。「いつもと同じパターン」をなぞることで、脳は初めて「安全だ」と認知できます。
- 「感覚過敏」への自己防衛:特定の服しか着ないのはわがままではなく、他の服のタグや生地が「針で刺されるような痛み」として感じられているからかもしれません。
- 「情緒のコントロール(自己刺激・自己鎮静)」:同じ動作や同じ遊びを繰り返す(常同行動)ことで、過剰に興奮した脳をクールダウンさせ、心の平安を保とうとしています。
2. 「直すべきこだわり」と「見守るべきこだわり」の仕分け
こだわりが見られたとき、大人がまず考えるべきは「困っているのは誰か?」という視点です。
| 区分 | 判断基準 | 対応の方向性 |
| 見守る・活かすこだわり | 本人が楽しんでおり、健康や命、他者の権利を脅かさないもの(例:電車や図鑑への過度な没頭、決まった靴下を履く) | 無条件で保証する・強みとして伸ばす (無理に変えさせず、自己肯定感の源泉にする) |
| 緩めていくこだわり | こだわりが強すぎて本人が生きづらさを感じているもの(例:予定変更でパニックになり外出できない、他人の席を激しく奪う) | 安心の土台を作った上で、少しずつ「選択肢」を広げる |
つまり、「こだわっているから直す」のではなく、「本人が生きづらさを抱えているから、その困りごとを減らす」アプローチへシフトします。
3. 【事例から学ぶ】「無くす」のではなく「広げる」アプローチ
事例①:「いつも決まった席に座りたい」Aさん
他の子がその席に座ると激しく怒ってしまうAさん。
- 支援の視点: 席を取り上げるのではなく、まずは「その場所がAさんの安全基地なんだね」と受容します。事前にAさんの専用席を確保して安心させたうえで、慣れてきたら「今日はA席、明日はB席」と、「安全な場所のバリエーション」を視覚的スケジュールを使って1つずつ増やしていきました。
事例②:「急な予定変更でパニックになる」Bさん
「今日は公園」と決めていたのに雨が降り、パニックになるBさん。
- 支援の視点: 変更そのものをゼロにするのではなく、「変更が起きること」を構造化(あらかじめ見通しに組み込む)します。「公園(晴れの日)」と「室内アスレチック(雨の日)」のカードをあらかじめセットで提示し、「雨が降ったらBプランになるよ」と「予告された変化」を経験させることで、柔軟性を育てました。
4. こだわりは未来の「才能」と「強み」の原石
一つのことに執着できるパワーは、見方を変えれば「圧倒的な集中力」「専門性」「観察眼の深さ」という最高の強みです。
- 特定のキャラクターへのこだわり ➔ 文字や数字、英語を覚える教材にする
- ミニカーを綺麗に並べるこだわり ➔ 分類能力や整頓のスキルとして褒める
- 決まった手順を守るこだわり ➔ ルールやマナー、手順書通りの作業を正確にこなす力へ繋げる
「〇〇ばかりして……」と制限するのではなく、「〇〇が好きだからこそ、ここからどう世界を広げられるだろう?」と発想を転換してみましょう。
5. 「こだわり」と付き合うためのステップ(スモールステップ法)
- まずは「こだわり」をまるごと保証する(安全基地の確保):本人が十分に満足し、心が安定するまで寄り添います。
- 「ほんの少しのバリエーション」を添える:100%変えるのではなく、「90%はいつもの通り+10%だけ新しいこと」を提案します。(例:好きな赤い色鉛筆で塗った後、「仕上げに1回だけオレンジも使ってみる?」)
- 「違っても大丈夫だった」という成功体験を重ねる:少しでも違うパターンを受け入れられたら、「違う道を通っても無事に着けたね!」「選択肢が増えたね!」と具体的に称賛します。
おわりに
「こだわり」は、お子さまが複雑で予測不能な世界を生き抜くために考え出した、必死の自衛手段です。
その救命胴衣を無理やり脱がせるのではなく、「この道も歩きやすいよ」「この道具を使うと楽だよ」と、安全な選択肢を一つずつ増やしてあげること。それが、特性を尊重しながら社会性を育む支援の本来の姿です。
子どもの「譲れない!」の裏側にある声に耳を傾け、焦らずゆっくり、世界の広さと面白さを一緒に探していきましょう。



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