発達障害(自閉スペクトラム症・注意欠如多動症(ADHD)・学習障害など)の特性そのものを「一次障害」と呼びます。
これに加えて、環境や人間関係などから生じる心身の不調や行動上の困難を「二次障害」といいます。
発達障害のある人すべてが二次障害を抱えるわけではありませんが、周囲とのミスマッチやストレスが積み重なると、子どもから大人まで、誰にでも起こりうるものです。
中には、二次障害がきっかけとなり、初めて発達障害と診断されるケースも少なくありません。
二次障害とは?
一次障害:発達障害に起因する脳機能や認知機能の特性によって生きづらさを感じること。
二次障害:一次障害による困難に、周囲の理解不足やストレス、自己理解の欠如などが重なって生じる心身の不調や社会的な問題のこと。
具体的な例
- 心理的影響:自己肯定感の低下、不安、抑うつなど
- 行動・適応面:不登校、引きこもり、非行など
- 身体症状:摂食障害、自傷行為、睡眠障害 など
なぜ二次障害が起こるのか?
① 環境とのギャップ
- 学校や職場で「人と同じようにできない」ことへのプレッシャー
- 周囲の理解不足や偏見、誤解
② 自己理解の不足
- 自分の特性に気づかず、「怠け」「わがまま」と自分を責めてしまう
③ ストレスの蓄積
- 注意散漫やコミュニケーションの困難による失敗経験の積み重ね
- 孤立感や「自分の居場所がない」と感じること
●事例①:中学2年生・Aさん(ADHD傾向)
Aさんは注意がそれやすく、授業中に立ち歩くことが度々あり、教師からたびたび叱られていました。周囲からも「ちゃんとして」「サボっている」と責められる経験を繰り返すうちに、自己否定感が強くなり、次第に教室に入るのを嫌がるようになりました。最終的に不登校となり、家庭内でもイライラが強く、暴言や物を壊す行動が見られるようになりました。
●事例②:高校1年生・Bさん(自閉スペクトラム症)
Bさんは暗黙のルールや集団行動が苦手で、グループ活動でうまく立ち回れませんでした。周囲の生徒から無視されたり陰口を言われるようになり、やがて対人恐怖が強まり登校できなくなりました。家でもほとんど話さなくなり、摂食障害や不眠の症状が出始め、医療機関での支援が必要となりました。
年齢別に見られやすい二次障害の例
年代 | 主に見られる特徴 |
幼児期 | 軽度の適応上の行動の問題 |
学童期 | 学業や集団活動、対人関係での困難、情緒面の不安定さ |
青年期 | 精神的・行動的な問題、心身症、情緒の不安定さ |
成人期 | 適応の困難、精神的問題、情緒の不安定さ |
予防と対応
① 早期発見・早期支援
- 発達特性に応じた療育やカウンセリング
- 学校や職場での合理的配慮(環境調整・評価方法の工夫など)
② 自己理解とセルフアドボカシー
- 自分の得意・不得意を理解し、適切に伝える力を育てる
- 自己肯定感を育む支援プログラムの導入
③ 心理的ケア
- 認知行動療法などの心理療法
- ストレスマネジメントの技法の習得
④ 周囲の理解と支援体制の整備
- 保護者・教員・職場の同僚への研修や情報提供
- 支援者同士のネットワーク構築(支援会議・ピアサポートなど)
二次障害は治るのか?
発達障害そのものは先天的な脳機能の違いであるため、「治す」ことはできません。しかし、二次障害は生育環境や経験によって生じるため、適切な支援や治療によって回復・改善が可能です。
具体的な支援方法
- 内在化障害(抑うつ・不安など):心理療法(認知行動療法など)や薬物療法、家族療法
- 外在化障害(攻撃性・暴力行為など):必要に応じて薬物療法や入院治療
ただし、医療機関だけではなく、家庭・学校・職場・福祉機関などが連携して取り組むことが不可欠です。
まとめ
- 二次障害は、発達障害が直接引き起こすものではなく、周囲の対応や環境、自分自身の捉え方によって生じます。
- 一次障害を正しく理解し、環境調整や心理的支援を行うことで、二次障害の予防・軽減が可能です。
- 発達障害の支援においては、特性への対応と同時に、二次障害という「後から起きる困難」への目配りがとても重要です。
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