愛着障がいについて

目次

★はじめに

「うちの子、なかなか人と打ち解けない」「すぐ怒る、やたらと甘えてくる」――そんな子どもの様子に、戸惑いや不安を感じたことはありませんか? もしかすると、その行動の背景には「愛着」に関する課題が隠れているかもしれません。

【愛着(アタッチメント)】とは、乳幼児が特定の大人(多くは養育者)と築く、心理的な絆のことです。赤ちゃんが泣いたときに抱っこしてもらう、困ったときに助けてもらえる――そんなやり取りの積み重ねが、「人を信じる力」や「自分は大切にされている」という感覚を育みます。

ところが、さまざまな事情によってその絆がうまく育たないと、子どもは心の中に慢性的な不安を抱え、人との関係づくりや感情のコントロールが難しくなることがあります。これが「愛着障がい(愛着の問題)」と呼ばれる状態です。


★どんな特徴があるの?

愛着障がいのある子どもは、他者との関わり方や感情表現に独特の特徴が見られます。主に以下の2つのタイプに分けられることが多いです。

1.引っ込み思案で心を閉ざすタイプ(抑制型)

  • 他者に対して過度に警戒心を持ち、表情が乏しい
  • 慰めても無反応だったり、感情をあまり外に出さない
  • 遊びにも積極的に参加しないことが多く、見守るだけ

事例:
5歳の男の子Aくんは、保育園で先生が優しく声をかけても反応が薄く、友だちの輪にも入ろうとしません。何か失敗すると、強く叱られたわけでもないのに自分を責めて泣き出してしまいます。家庭では母親が多忙でほとんど一緒に過ごす時間がなく、Aくんは自分の気持ちをうまく出せなくなっているようでした。

2.人なつこすぎるタイプ(脱抑制型)

  • 初対面の大人にも極端に甘えたり、すぐに抱きついたりする
  • 親しい関係を築いても、その関係を安定して保てない
  • ルールや境界線を守るのが難しい

事例:
小学校1年生のBちゃんは、担任の先生に毎朝抱きつき、「先生だいすき」と何度も言います。保護者会では他のお母さんにも甘えるように話しかけますが、実は家での生活は不安定で、夜も一人で眠れずパニックになることがあります。Bちゃんは、誰かとつながりたい思いが強い一方で、「この人はずっとそばにいてくれるの?」という不安を常に抱えています。

これらの行動は、「信頼したくても、裏切られるかもしれない」「どうせ自分は大切にされない」という心の揺らぎから来ていることが多いのです。わざと問題行動をしているわけではなく、「助けて」「わかって」と子どもが必死にサインを出していると考えると、見方が大きく変わるかもしれません。


★どうしてそうなるの?

愛着の形成には、乳幼児期の安定した関わりが大きく影響しますが、親子関係に問題があるからと単純には言えません。実際には、以下のようなさまざまな事情が影響することがあります。

  • 親自身がうつ病や育児不安を抱えていた
  • 赤ちゃんの入院や、長期的な親子分離の経験があった
  • 虐待やネグレクト(育児放棄)を受けた
  • 養護施設で育つなど、一貫した大人との関係を築けなかった
  • 引っ越しや離婚などで、生活環境が何度も変わった

事例:
2歳のCくんは、生まれてすぐに医療的ケアが必要で3ヶ月間入院。退院後も両親が共働きで忙しく、保育園での預かり時間も長かったため、特定の大人との安定した関わりが持ちにくい状況でした。徐々に、「呼んでも来てくれない」「甘えても無視される」と感じ、感情を表に出さないようになっていきました。

このようなケースでは、保護者が「自分のせいでは」と自責感を抱きやすいですが、それは必要ありません。

大切なのは、「今、この子とどう関わるか」です。どの子どもも、後からでも信頼関係を築いていく力があります。


★家庭でできる関わり方

愛着に不安を抱える子どもに必要なのは、「自分はここにいていい」「この人は自分を裏切らない」という安心できる存在です。特別な支援よりも、日々のちょっとした関わりの積み重ねが何より大切です。

決まったルールや習慣を大事にする

毎朝の挨拶、寝る前の読み聞かせなど、「いつも通り」のリズムが、子どもの心に安定をもたらします。

例: 「おはよう」とハイタッチ、「寝る前に必ず一冊絵本を読む」など、小さな“約束”を続けることで、「今日も同じだ、安心できる」と感じられます。

気持ちを言葉で受け止める

叱るより、まずは気持ちに共感を示しましょう。「なんでそんなことしたの!」ではなく、「そんなに悲しかったんだね」と寄り添うことが第一歩です。

小さな成功体験を褒める

「靴が自分で履けたね」「最後まで絵を描けたね」など、小さな「できた」を見つけて、しっかり言葉で伝えることが自己肯定感を育てます。

無理せず、相談する

親自身が不安を抱えていると、子どもにもその不安は伝わってしまいます。困ったときは、地域の子育て支援センター、スクールカウンセラー、児童相談所、医療機関などに相談してみましょう。

市区町村の「発達相談」や「育児相談」では、無料で専門家に話を聞いてもらえることが多く、必要に応じて支援先につないでもらえます。


★さいごに

愛着に課題を抱える子どもたちの行動の背景には、「わかってほしい」「本当は甘えたい」「安心したい」という切実な思いが隠れていることがあります。

時間はかかっても、大人との信頼関係は後からでも十分に築くことができます。
「この人は逃げない」「ちゃんと見てくれている」と感じられたとき、子どもは少しずつ心を開きはじめます。

「うちの子、ちょっと気になるな」と思ったときこそ、子どもからのサインに耳を傾けてみてください。どんな子も、自分らしく育つ力を持っています。その芽を信じて、焦らず、丁寧に育てていきましょう。

もし不安や戸惑いがあれば、一人で抱え込まず、身近な支援機関や医療機関に相談してみてください。それは、子どもと向き合うための、勇気ある第一歩です。

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