子ども時代に育む「共感力」:多様な社会を生き抜くための羅針盤

グローバル化と多様化が急速に進む現代社会において、私たちはさまざまな背景を持つ人々と共に生きていくことが求められています。

このような時代に、子どもの頃から育んでいきたい力の一つが、非認知能力の中でも特に注目される「共感力」です。

共感力とは一体どのような力なのでしょうか? そして、なぜ今、これほどまでに共感力が重要視されるのでしょうか。

この記事では、共感力の多面的な定義から、その重要性、具体的な育み方、さらには共感力が高いゆえの特性「エンパス」まで、障がい福祉の視点も交えながら、深く掘り下げて解説していきます。

子どもの未来を豊かにするため、そして私たち自身がより良い社会を築くために、この「共感力」について一緒に考えてみましょう。

目次

「共感」とは何か?  3つの側面から理解する

「共感」という言葉は日常的に使われますが、その中にはいくつかの異なる側面があります。これらを理解することで、共感力をより深く捉え、子どもの育ちを支援する上で役立てることができます。

一般的な共感の定義は「ほかの人の考えや意見・気持ちなどに自分もそうだ、と感じること。また、その気持ち」とされていますが、心理学では主に以下の3つの要素に分けられます。

① 認知的共感(Cognitive Empathy)

これは、相手の感情や思考を「頭で理解しようとすること」です。相手が「今どんな気持ちでいるか、何を考えているのか、これからどうしようとしているのか」といった、当人の感情や思考を推測する力と言えます。

実例

  • 友達が発表会で失敗して落ち込んでいるのを見て、「ああ、きっと頑張って練習したのに、悔しいだろうな」と考える。
  • 障がいを持つ子が、新しい場所で戸惑っている様子を見て、「きっと周りの音や光が刺激になって、落ち着かない気持ちなんだろう」と想像する。

② 情動的共感(Emotional Empathy)

これは、相手の感情が「自分に伝染して、同じような感情を抱くこと」です。相手の悲しい気持ちが伝わって自分も悲しくなったり、嬉しい気持ちが伝わって自分も嬉しくなったりする現象です。この情動的共感は、相手の表情、声のトーン、しぐさなどを通して脳が反応する、より直感的で原始的な共感の形です。人類が社会的な動物として進化の過程で身につけてきた、本能的な側面が強いと言われています。

実例

  • 運動会で友達がゴールした時に、まるで自分がゴールしたかのように一緒に飛び跳ねて喜ぶ。
  • 誰かが転んで膝を擦りむいたのを見て、思わず自分も痛いような感覚を覚える。
  • 感情表現が苦手な子でも、誰かが泣いている声を聞いて、つられて涙ぐんでしまうことがある。

③ 共感的関心(Empathic Concern)

この共感的関心は、「相手の苦痛やニーズを理解し、それに対して何らかの助けを提供したいという気持ちが芽生えること」です。単に相手の感情を理解したり、共有したりするだけでなく、「相手が自分に何を求めているのか」「自分は相手に何をしてあげられるのか」を考え、実際に行動に移すことにつながる力です。上記の2つが比較的直感的な共感であるのに対し、共感的関心は、相手を深く考慮し、自分自身の行動を熟考して決めるため、より高次の認知能力が必要になるといわれています。

実例

  • 友達が悲しんでいるのを見て、「何かできることはないかな?」と考え、「話を聞いてあげようか?」と声をかける。
  • 発達障害のある子が特定の課題で困っていると知って、「どうすればこの子の学びをサポートできるだろう?」と具体的に方法を模索し、視覚的な教材を用意する。

これら3つの共感はそれぞれ独立しているだけでなく、互いに影響し合いながら働くことで、より豊かな人間関係を築き、社会性を育む土台となります。

共感力は、子どもたちが将来、多様な人々の中で自分らしく生き抜くため、そして他者と協働していく上で不可欠な力であると言えるでしょう。

共感力が高い人の特徴と、共感力が低いことの兆候

共感力は、社会生活において様々な良い影響をもたらします。共感力が高い人には共通する特徴が見られますが、一方で、共感力が低いことにもいくつかの兆候があります。

共感力が高い人の特徴

聞き上手である 共感力が高い人は、相手の伝えたいことを最後まで集中してしっかりと聞くことができます。相手の気持ちになって話を聞くため、「話の展開を先回りして話し始める」「話の途中で遮って質問する」といったことが少なく、相手は安心して話すことができます。

思いやりがある 他者の立場に立って物事を理解できるため、相手を怒らせたり、不安にさせたりすることが少ない傾向があります。また、思いやりがある人は「相手を安心させる行動が多い」ため、人との信頼関係を築きやすくなります。

リーダーシップ力がある 共感力のある人は、他者の思考や感情を繊細に読み取ることができます。これにより、チームメンバーのモチベーションを高めたり、異なる意見をまとめたり、適切な役割分担を促したりと、効果的なリーダーシップを発揮することができます。例えば、職場でのプロジェクトにおいて、メンバーの隠れた不安や悩みを察知し、先回りしてサポートすることで、チーム全体の生産性を高めることができるでしょう。

問題解決能力が高い 相手のニーズや困難を深く理解できるため、表面的な問題だけでなく、その根底にある原因を見抜き、より本質的な解決策を導き出すことができます。

共感力が低いことの兆候

一方で、共感力が低いと見なされる人には、以下のような特徴が見られることがあります。

自己顕示欲が強い、自己中心的 自分の意見や感情が優先され、他者の感情を顧みない傾向があります。

他人に興味がない、無関心 他者の話に耳を傾けず、相手の喜びや悲しみに反応が薄いことがあります。

思いやりがない、冷淡に映る 他者の困難や苦しみに無頓着で、配慮に欠ける言動が見られることがあります。

人間関係の構築が困難 相手の気持ちを理解しようとしないため、信頼関係を築きにくく、孤立してしまうことがあります。

しかし、お子さんの共感力が低いと感じても、決して心配する必要はありません。

共感力は生まれ持った才能ではなく、後天的に高めることができるスキルだからです。次のセクションでは、具体的な共感力の高め方をご紹介します。

子どもの共感力を育む具体的な方法:家庭でできる実践例

共感力は、日々の生活の中での関わりを通して育まれます。

特に、5〜7歳頃は周りの人への意識が芽生え、共感を育むのに最適なタイミングだと言われています。

子どもの気持ちを言語化する:自己理解が共感の第一歩

他者の感情を理解するには、まず自分自身の感情を理解することが重要です。普段から子どもの中で「気持ち」と「言葉」が対応するように促す言葉がけが有効です。

実践例

  • 「あの時、どんな気持ちだった?」「ちょっと悲しかったね」:子どもが何かを経験した際に、大人が「どう感じたの?」と尋ねたり、子どもの表情や様子から感情を読み取って「〇〇な気持ちだったかな?」と代弁したりすることで、子どもは自分の感情に名前をつけることを学びます。
  • 「嬉しいね」「悔しいね」と一緒に言葉にする:大人が子どもの感情に寄り添い、それを言葉で示すことで、子どもは「自分の気持ちは理解されている」という安心感を抱き、同時に様々な感情表現を身につけていきます。

この際、大人が共感を示すことは、子どもにとって非常に良いお手本となります。

「そうだね、悔しかったね」「頑張ったのに、残念だったね」と寄り添うことで、子どもは「自分の気持ちは受け止められる」という経験を積み、他者の気持ちを受け止める基盤を築きます。

② 他人の気持ちについて話し合う:想像力を育む対話

「相手の気持ちを推測する力(思いやりの力)」は6歳ごろから発達するといわれています。子どもが他者の気持ちを想像できるようになってきたら、具体的な状況を通して問いかけをしてみるとよいでしょう。

実践例

  • 絵本やアニメ、テレビ番組を見ながら「この子はどう感じたかな?」「なんでこんなことをしたのかな?」と問いかける:登場人物の気持ちや行動について話し合うことで、子どもは他者の視点に立ち、多様な感情や考えがあることを学びます。
  • 公園で友達同士のやり取りを見た後で「お友だちはどう感じたかな?」と聞く:日常の具体的な場面を通して、他者の気持ちを想像する練習を促します。
  • 「もし〇〇ちゃんが転んだら、どんな気持ちになるかな?」「どうしてそう思ったの?」:単に答えを求めるだけでなく、その理由を問うことで、より深く考える力を引き出します。

この時、子どもの気持ちや表現を決して否定しないように気をつけましょう。たとえ的外れな答えであったとしても、「そういう考え方もあるね」「面白い見方だね」と一度受け止めることで、子どもは安心して自分の考えを表現できるようになります。

また、他者の行動や気持ちを学ぶのに「ごっこ遊び」も最適だと言われています。お医者さんごっこやお店屋さんごっこを通して、異なる役割を演じることで、相手の立場や感情を疑似体験し、共感力を育むことができます。

③ たくさんのストーリーに触れる:多様な価値観との出会い

共感力を高めるために効果的なのは、さまざまな「ストーリー」に触れることです。

実践例

  • 伝記やドキュメンタリー番組を見る:歴史上の人物の人生や、異なる文化で生きる人々の生活を知ることで、子どもは彼らの喜び、悲しみ、努力、葛藤などを疑似体験します。これにより、「世の中には様々な考え方を持つ人がいる」と理解し、「他者に対する想像力」を豊かにすることができます。
  • 絵本、物語、映画、テレビ番組、漫画など多様なコンテンツに触れる:架空の物語であっても、登場人物の感情の機微や人間関係の描写を通して、子どもは多くの疑似体験をします。特に、障害や多様な背景を持つ登場人物が登場する作品は、子どもたちの理解を深める良いきっかけになります。

    例えば、車いすの子が主人公の絵本を読んだり、聴覚に障がいを持つキャラクターが出てくるアニメを見たりすることで、「自分とは違う人もいるんだ」「こういうことで困ることもあるんだ」といった気づきが生まれます。

さまざまな他者の気持ちを知ったり想像したりすることで、共感力は飛躍的にアップします。

上記3つのような共感力を高めるトレーニングを継続すると、脳の共感をつかさどる部分が成長することが近年の研究で明らかになっています。共感力は生まれ持った才能ではありません。いつからでも、意識的な関わりによって高めることができるスキルなのです。

共感力が高すぎる「エンパス」という気質:繊細さとその向き合い方

一方で、共感力が高すぎて、日常生活で困難を感じている人もいます。

人並み外れた高い共感力を持つ人は「エンパス(Empath)」と呼ばれることがあります。

日本人の5人に1人がエンパス気質を持っているとも言われており、決して珍しいことではありません。

エンパスの主な特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 相手に合わせるのが得意だが、疲れやすい:無意識に空気を読み、相手の気持ちを察して行動するため、自分でも気づかないうちに心身が疲弊してしまうことがあります。
  2. 他人の悩みを自分のことのように感じ、一緒に悩む:相手の感情を深く受け止めるため、自分事のように苦悩し、精神的に影響を受けやすいです。
  3. 自分の本心がわかりにくくなる:常に他者の感情やニーズを優先するため、自分の本当の気持ちや欲求がわからなくなることがあります。
  4. 他人のウソや本音に敏感に気づく:言葉の裏にある真意や、相手の隠れた感情を察知する能力が高いです。
  5. 人が怒られていると自分が怒られているようにつらく感じる:他者の負の感情に過剰に反応し、物理的な痛みのように感じてしまうこともあります。
  6. 相手の気持ちや考えを想像するあまり、思い込みや勘違いをしやすい:深く考えすぎて、現実とは異なる解釈をしてしまうことがあります。
  7. 小さな物音で起きるほど眠りが浅い:周囲の刺激に敏感で、五感が過敏になる傾向があります。

エンパスの気質を持つ人は、環境のわずかな変化にも気持ちが大きく左右されることがあります。

そのため、同じ状況下であっても「できるとき」と「できないとき」があり、「気分屋で怠けている」「気むずかしい」「わがままや無理を言っている」と周囲に誤解されてしまうことも少なくありません。

実例

  • Hさん(30代、エンパス気質): 職場では常に同僚の表情や声のトーンを気にかけ、誰かが困っていそうだとすぐに手助けに回っていました。しかし、それが続くと極度に疲労し、週末はほとんど寝込んでしまう状態に。周りからは「優しい人」と評価される一方で、「急に元気がなくなることがある」「頼み事をすると嫌そうにする」と誤解されることもありました。自分の限界が分からず、無理をしてしまう傾向があり、一時はうつ病のような症状に苦しみました。

エンパスは病気ではなく、あくまで生まれ持った「気質」の一つです。医療従事者、カウンセラー、保育士、福祉職など、高い共感力を必要とする職業にエンパス気質を持つ人が多いと言われています。

もし、ご自身やお子さんがエンパスの気質を持っていると感じ、それが日常生活に困難をもたらしている場合は、一人で抱え込まず、専門家(カウンセラーや精神科医など)に相談することをお勧めします。

自身の特性を理解し、適切な対処法や環境調整を学ぶことで、共感力を自身の強みとして活かすことができるようになります。

最後に:共感の価値を見直し、高める努力を

現代社会は、情報過多で競争が激しく、ともすれば他者への関心が薄れがちだと言われることもあります。しかし、このような時代だからこそ、共感力」の価値はますます高まっています。

共感力は、個人の豊かな心を育むだけでなく、いじめや差別をなくし、多様性を尊重し合える社会を築くための重要な礎となります。私たちが互いの違いを理解し、支え合うためには、相手の立場に立ち、その感情や考えに寄り添う共感の力が不可欠です。

子どもたちが共感力を育むことができるよう、家庭や学校、地域社会が一体となって環境を整えることが大切です。そして、私たち大人自身もまた、共感の価値を再認識し、日々の生活の中で共感力を高める努力を続けていきたいですね。

このブログ記事が、あなたの共感力への理解を深め、日々の実践に役立つきっかけとなれば幸いです。

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