夜中に突然、お子さんが恐ろしい叫び声を上げたり、目を覚まさずに歩き回ったりして、ドキッとされた経験はありませんか?
これらの症状は、睡眠障害の一種である**「夜驚症(やきょうしょう)」や「夢中遊行症(むちゅうゆうこうしょう)」(夢遊病)**かもしれません。これらは、脳の発達に伴って見られることが多く、多くの場合、成長とともに自然に改善していきます。
この記事では、夜驚症と夢中遊行症の特徴、原因、そして親御さんが家庭でできる具体的な対処法について、専門家の視点から詳しく解説します。
1. 夜驚症と夢中遊行症の特徴:覚醒障害とは
夜驚症も夢中遊行症も、深い睡眠(ノンレム睡眠)の途中で、脳の一部だけが中途半端に覚醒してしまう**「覚醒障害」**という睡眠障害の仲間です。夢を見ている状態(レム睡眠)とは異なり、深い眠りの中で起こるのが特徴です。
| 睡眠障害 | 特徴 | 発症しやすい年齢 |
| 夜驚症 | 🔴 恐怖の叫び声やパニックを伴って突然覚醒する。 | 3歳~6歳くらい |
| 🔴 恐怖や不安におびえた表情や動作を示す。 | ||
| 🔴 呼びかけに反応は鈍く、目を覚まさせにくい。 | ||
| 🔴 翌朝、エピソードをほとんど覚えていない。 | ||
| 夢中遊行症 | 🚶 ベッドから起き上がり、歩き回るエピソードを繰り返す。 | やや年長の子ども |
| (夢遊病) | 🚶 目は開いているが、周囲への反応は鈍い。 | |
| 🚶 危険な行動(窓を開ける、外に出ようとする)をすることがある。 | ||
| 🚶 翌朝、エピソードをほとんど覚えていない。 |
これらは、脳の睡眠を調整する機能がまだ未熟なために生じると考えられており、発達に伴って自然に解消していく傾向が強いです。
2. なぜ起こる?夜驚症・夢中遊行症の原因
夜驚症や夢中遊行症の正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、以下の要因が複雑に関与していると考えられています。
- 睡眠のサイクルのアンバランス:睡眠には深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)のサイクルがありますが、夜驚症などは、最も深いノンレム睡眠の初期段階から、次の睡眠段階へ移行する際に、脳がうまく覚醒できずに、中途半端な覚醒状態になることで起こると考えられています。
- 脳の発達段階:特に小児期は、睡眠を調整する脳の機能がまだ成熟しきっていないため、この覚醒の切り替えがうまくいかないことが、夜驚症や夢中遊行症が起こりやすい主な理由です。
- 遺伝的要因:ご家族の中に夜驚症や夢中遊行症(睡眠時遊行症)の経験者がいる場合、お子さんにも起こりやすい傾向があります。
- 心理的な要因(誘因):日中のストレス、強い不安、興奮などが引き金となることがあります。例えば、大きな環境の変化、発表会前の緊張、夜遅くまで激しく遊んだ日などが挙げられます。
- 体調不良(誘因):発熱や、睡眠不足、疲労などがきっかけで症状が出ることがあります。睡眠不足は深いノンレム睡眠の時間を長くするため、覚醒障害が起こりやすくなると考えられています。
3. お子さんとご家族への影響と安心のための知識
夜驚症や夢中遊行症が、お子さんの心身の発達に直接的な悪影響を及ぼすことはほとんどありません。しかし、以下のような心配事が出てくることもあります。
| 心配される点 | 専門家からのアドバイス |
| お子さんの睡眠への不安 | 症状が出た後、お子さんはその時の恐怖を覚えていないことがほとんどです。ただし、親の動揺が伝わることで、間接的に睡眠への不安を抱く可能性はあります。 |
| ご家族の睡眠不足と不安 | 突然のパニックや歩行に驚き、親御さんが睡眠不足や精神的負担を感じやすいです。特に夢中遊行症は安全管理の負担も大きくなります。 |
| まれな疾患との関連 | 非常にまれですが、てんかんなどの他の疾患から同様の症状が出ることもあります。症状が頻繁に起こる、エピソードが長引く、日中の様子がおかしいといった場合は、小児科医に相談し、必要に応じて検査を検討します。 |
4. 具体的な対応と治療・フォロー【専門的な対処法】
夜驚症や夢中遊行症に対して特別な治療薬はありませんが、環境調整と適切な対応が、症状の軽減とご家族の不安解消につながります。
📌 ステップ1:安全な環境の整備(最優先事項)
夢中遊行症の場合、お子さんが無意識のうちに怪我をしないよう、安全を確保することが最も重要です。
- 危険物の撤去: 寝室や廊下から、転びやすい物や、ガラス製品など危険な物を片付けましょう。
- 転落防止: 窓やベランダの鍵をかけたり、階段の昇り口にゲートを設置したりするなど、子どもの手の届かない位置で施錠する工夫が必要です。
- 就寝場所の検討: 可能であれば、ベッドから落ちる危険がないよう、低い布団やマットレスで寝ることも有効です。
📌 ステップ2:規則正しい生活リズムの徹底(基本的な対策)
睡眠不足は症状の誘因となるため、規則正しい生活を送ることが基本的な対策となります。
- 規則的な就寝・起床時間: 毎日同じ時間に寝起きし、体内のリズムを整えましょう。週末の寝坊も、ズレを最小限に抑えることが推奨されます。
- 寝る前のリラックス: 寝る1時間前からは、激しい遊びやテレビ、スマートフォンなどの強い光や刺激を避け、絵本の読み聞かせや静かな音楽を聴くなど、リラックスできる時間を作りましょう。
📌 ステップ3:エピソード発生時の具体的な対処法
症状が出た際の親御さんの対応は、お子さんの混乱を防ぐために非常に重要です。
| 睡眠障害 | 発生時の対応 | なぜその対応が良いのか |
| 夜驚症 | ✅ 落ち着いて見守る | 無理に抱きしめたり、声をかけたりすると、さらにパニックになることがあります。声をかけずに、危険がないかだけ確認し、落ち着いて見守りましょう。 |
| ✅ 安全確保 | 激しく動き回る場合は、静かに優しく誘導し、怪我をしないように寄り添います。 | |
| 夢中遊行症 | ✅ 優しく静かに誘導 | 大声で起こしたり、強く制止したりすると、錯乱状態になることがあります。声をひそめ、優しく手を引いてベッドに戻るよう促しましょう。 |
| ✅ 起こさない | 翌朝エピソードを覚えていないため、無理に起こす必要はありません。安全にベッドに戻すことを優先します。 |
📌 ステップ4:ストレス・不安の軽減(心理的なフォロー)
日中の生活におけるストレスや不安が誘因となるため、その軽減をサポートしましょう。
- 日中のコミュニケーション: 登園・登校での出来事や、友達との関係など、日中の不安や悩みを話せる時間を作り、傾聴しましょう。
- リラックスできる時間の確保: 習い事などでスケジュールを詰め込みすぎず、自由遊びの時間や親子のゆったりとした触れ合いの時間を大切にしましょう。
- 褒めて自己肯定感を育む: 不安になりがちな子には、日頃から「できたこと」を具体的に褒め、自信と安心感を与えることが大切です。
📌 ステップ5:医師への相談
多くの場合は自然に治りますが、以下のような場合は小児科医や睡眠専門医に相談しましょう。
- 症状が週に何度も起こるなど頻繁で、ご家族の負担が大きい場合。
- エピソードが長く続く、あるいは年齢が高くなっても改善しない場合。
- 夢中遊行症で危険な行動(家の外に出る、高いところに登るなど)が見られる場合。
- 日中の眠気や集中力の低下など、生活に支障をきたしている場合。
まとめ:焦らず、見守り、成長を待つ
夜驚症も夢中遊行症も、お子さんの脳の発達が途上にある証拠であり、多くの場合、成長とともに自然に治まるものです。
親御さんは、突然の出来事に不安を感じるかもしれませんが、**「これは一過性の現象である」**と理解し、安全な環境を整え、規則正しい生活をサポートすることに集中しましょう。ご家族だけで悩まず、小児科医や支援機関のサポートも活用しながら、温かく見守ってあげてください。

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