作業療法士と発達障がい支援について 〜子どもの「できた」を支える専門職〜

発達障がいのあるお子さんを育てているご家庭にとって、子どもの「苦手」や「できない」にどう向き合うかは大きな課題です。

そんなとき、保護者や支援者の力になってくれるのが作業療法士(OT: Occupational Therapist)です。

作業療法士は、発達障がいのある子どもたちが日常生活を自分らしく、より自立して過ごせるように支援する専門職です。ここでは、作業療法士の役割と、具体的な支援の実例を通してその魅力に迫っていきます。


目次

作業療法士は何をするの?

作業療法士は、医療・福祉・教育など幅広い現場で活躍しています。特に子どもの発達支援の場では、「遊び」や「生活」を通して心身の成長を支える存在です。

以下では、発達障がいのあるお子さんに対して作業療法士が行う支援の内容を、具体的に紹介していきます。


1. 日常生活動作(ADL)を楽しく練習!

【支援内容】

食事、トイレ、着替え、歯みがきなどの基本的な生活動作を、一人でできるようになるための練習をします。

【実例】

5歳のAくんは、手先が不器用でボタンがうまく留められず、着替えに時間がかかっていました。作業療法士は、Aくんの指の動きに注目し、指先を使う遊び(ビーズ通しや洗濯ばさみ遊びなど)を取り入れながら手指の巧緻性を高めました。3ヶ月後、自分でボタンを留められるようになり、自信につながりました。


2. 感覚統合の支援

【支援内容】

「音に敏感」「抱っこされるのが苦手」「じっとしていられない」など、感覚の過敏さや鈍さがある子どもには、感覚統合の視点からの支援が有効です。

【実例】

4歳のBちゃんは、集団生活中に突然走り出したり、ひとりで床に寝そべってゴロゴロしてしまうことがありました。作業療法士は、Bちゃんが体の位置や刺激を感じづらい「感覚鈍麻」があると評価し、ブランコやトンネルくぐりなどの活動を取り入れて体の位置を感じる力を育てました。徐々に落ち着いて椅子に座って活動に参加できるようになりました。


3. 認知・学習面の支援

【支援内容】

書字、工作、パズル、順序立てた作業など、学習に必要な力を「楽しく・わかりやすく」育てます。

【実例】

6歳のCくんは、字を書くのが苦手で、鉛筆を強く握りすぎて疲れてしまっていました。作業療法士は、筆圧調整のための専用鉛筆を使いながら、指の力の加減を練習する遊び(粘土こねやスポンジつぶし)を実施。書字の負担が減り、学習への拒否感が薄れました。


4. 集団行動・社会性のサポート

【支援内容】

お友だちとの関わりやルールの理解など、「みんなと一緒に過ごす力」を育てます。

【実例】

7歳のDくんは、ゲーム中に負けると泣き出してしまい、友達との関係がうまくいきませんでした。作業療法士は、ルールがシンプルで達成しやすい協力型ゲームを使い、「順番を待つ」「相手を応援する」経験を積ませました。徐々に気持ちの切り替えができるようになり、友達との関係にも笑顔が増えていきました。


5. 環境調整と周囲への支援

【支援内容】

作業療法士は子どもだけでなく、保護者や保育士・教師と連携して、支援方法のアドバイスや環境調整の提案を行います。

【実例】

8歳のEさんは、学校で机に向かっているとすぐに姿勢が崩れ、集中力が続きませんでした。作業療法士は、机と椅子の高さ調整、クッションの導入、タスクの視覚化(タイマーや手順表の活用)を提案。先生も支援に協力してくれたことで、Eさんは学習に意欲的に取り組めるようになりました。


6. 子ども一人ひとりに合わせた「オーダーメイドの支援」

発達障がいのある子どもたちは、同じ診断名であってもその特性や得意・不得意はまったく異なります。

作業療法士はアセスメント(観察・評価)をもとに、子どもの姿を丁寧に理解し、一人ひとりに合った支援を組み立てていきます。

面談や家庭訪問、学校との連携などを通して、子どもを取り巻く環境ごとに支援の方法を調整することも、作業療法士の大切な役割です。


作業療法士の専門性:身体障害と発達支援での役割の違いとは?

作業療法士(OT)は、「日常生活の活動(作業)」を通して、人の心と身体の発達や回復を支援するリハビリテーション専門職です。OTが支援する分野は非常に幅広く、大きく分けて「身体障害領域」と「発達支援(脳の発達)領域」に分けることができます。それぞれの分野で求められる役割や支援方法には違いがあります。


1. 身体障害領域における作業療法士の支援

身体障害領域では、主に 病気やケガ、障がいによって身体機能が制限されている人 に対して、日常生活を自立して送れるように支援します。対象は小児から高齢者まで多岐にわたりますが、ここでは子どもにフォーカスして解説します。

代表的な対象疾患・障がい

  • 脳性まひ(CP)
  • 筋ジストロフィー
  • 脊髄損傷
  • 四肢欠損・麻痺
  • 重症心身障がい児 など

支援の具体例

  • 上肢機能や姿勢の改善
     例:スプーンをうまく持てない子に対して、手首の角度を保つ練習や、自助具の提案を行う。
  • 移動・姿勢保持の支援
     例:座位が保てないお子さんに対して、専用椅子やクッションを用いたポジショニング支援を実施。
  • 日常生活動作(ADL)の自立支援
     例:おむつ交換、食事、トイレ動作など、できる部分を見極めて段階的な自立を支援。
  • 福祉機器の選定や住宅改修の提案
     例:装具や車椅子の選定、家庭内での安全な動線設計などもOTの得意分野。

特徴

  • 運動機能と生活能力の橋渡しをする。
  • 医学的な知識と福祉的な視点の両方を持つ。
  • リハビリテーションの「生活再建」に特化。

2. 発達支援(脳の発達領域)における作業療法士の支援

発達支援領域では、主に 脳の発達の特性やゆっくりさにより、日常生活や学習、対人関係などに困難を抱える子どもたち に対して支援を行います。

代表的な対象

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 学習障害(LD)
  • 発達性協調運動障害(DCD)
  • 知的発達症 など

支援の具体例

  • 日常生活スキルの習得
     例:衣服の着脱が苦手な子に対して、手順を分解して「できた」を増やす練習を行う。
  • 感覚統合の支援
     例:過敏すぎて服が着られない子に対して、感覚の調整トレーニングを遊びの中で実施。
  • 手先の不器用さの支援
     例:鉛筆をうまく持てない、ハサミが使えない子どもに対して、指の使い方や姿勢を支援。
  • 自己調整力の育成
     例:気持ちが切り替えられない子に、タイマーや視覚支援ツールを使った環境調整を行う。
  • 集団参加・対人スキルの練習
     例:他児との関わりが苦手な子に、ボードゲームやルールのある遊びを通して社会性を育む。

特徴

  • 感覚、運動、認知、行動を統合的に支援。
  • 子ども自身の特性と「環境との相互作用」に注目。
  • 家庭・園・学校と連携し、包括的な支援計画を立案。

両者に共通すること:その子らしく生きるための「作業」を支えること

作業療法士の支援対象や手法は異なっても、根底にあるのは「その人が、その人らしく、自分の力で日々を過ごせるように支援する」ことです。

身体障害であっても、発達障がいであっても、生活の中にはその人なりの「大切な作業」があります。たとえば、「好きな遊びに熱中する」「友だちとお話しする」「自分でトイレに行く」「お弁当のふたを開ける」など、小さなことにも一つひとつ意味があるのです。

作業療法士は、そうした日々の営みを分析し、今の力でどうすればできるかを一緒に考え、環境や支援を調整して「できた!」を積み重ねていきます。


保護者の方へ:作業療法士をもっと活用してください

「うちの子にOTが必要なのかどうかわからない」と迷われることもあるかもしれません。ですが、「ボタンがうまくとめられない」「遊びに集中できない」「イスに長く座っていられない」といった日常の小さな困りごとは、OTが得意とする支援分野です。

少しでも「どうすればいいの?」と感じることがあれば、ぜひお気軽に作業療法士に相談してみてください。

子どもたちの「できる」を一緒に探していくパートナーとして、私たちがいます。


作業療法士と一緒に「できた!」を増やそう

発達に特性のある子どもたちにとって、「できた!」の経験は自信になり、未来を切り開く力になります。作業療法士は、その「小さなできた!」を一緒に喜びながら、子どもと家族を支えるパートナーです。

「なんだか気になる」「少し苦手があるみたい」――そんなときは、作業療法士がいる児童発達支援や病院、療育センターに相談してみることをおすすめします。


まとめ

作業療法士は、子どもの心と体、そして環境に寄り添いながら、子どもが「自分らしく生きる力」を育む支援者です。

発達障がいがある子どもにとって、毎日の生活が「挑戦の連続」であるからこそ、その一歩一歩を支えるプロフェッショナルの存在が大きな力になります。

どんな支援ができるのか、どんなふうに関わるのか、迷ったときはぜひ作業療法士に相談してみてください。

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