【発達障害におけるパーソナルスペースの重要性】

【発達障害におけるパーソナルスペースの重要性】

〇パーソナルスペースとは

人が他者との間に保ちたいと感じる物理的・心理的な距離のことであり、対人関係の円滑さや安心感に大きく関わる要素です。この距離感は文化や個人差によって異なりますが、多くの場合、相手の表情や態度、場の雰囲気などを無意識に読み取りながら調整されています。しかし、発達障害のあるお子さんの中には、このパーソナルスペースの感覚をつかむことが難しい子がおり、それがお友達とのトラブルや、園・学校での孤立につながることが少なくありません。児童福祉の現場では、この「目に見えない境界線」をいかに分かりやすく伝えるかが支援の鍵となります。

〇自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)の人は、他者の表情や視線、身振りといった非言語的なサインを読み取ることが苦手な傾向があります。そのため、相手が不快に感じてのけぞっていたり、困った顔をしていたりしても気づかず、物理的に近づきすぎてしまうことがあります。

【具体的表現の事例】 自分の好きなキャラクターや昆虫の話に夢中になると、お友達の顔が目の前に来るまで近づいて話し続けてしまう。本人にとっては悪意がなく、むしろ「親しみを示している」つもりであっても、相手には威圧感や不快感を与えてしまう場合があります。一方で、適切な距離が分からない不安から、必要以上に離れてポツンと一人で過ごしてしまい、「冷たい」「関わりたがらない」と誤解されることもあります。

〇注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(ADHD)の特性として、衝動性や思いついたことをすぐ行動に移してしまう傾向があり、初対面の相手にも急に距離を縮めてしまうことがあります。

【具体的表現の事例】 嬉しくなると加減が分からず、あまり親しくない相手にいきなり抱きついたり、顔を覗き込んだりしてしまう。これも本人にとっては自然な振る舞いであっても、相手との関係性ができていない段階では驚かれ、トラブルの原因になりやすいです。 さらに、物理的な距離だけでなく、「お給料はいくら?」「なぜ独身なの?」といった個人的な話題にどこまで踏み込んでよいのかという心理的距離感の調整が難しい場合もあり、結果として「踏み込みすぎる」と受け取られることがあります。

〇どう対応したらいいのか・・・

こうしたパーソナルスペースの問題は、本人の努力不足やしつけの問題ではなく、あくまで発達特性によるものである点を理解することが重要です。そして、この特性は適切な支援や工夫によって改善や調整が可能です。

  • 視覚的な指標(構造化): 「この距離が目安」と示したイラストや床のライン、フラフープなどを用いることで、抽象的な距離感を具体的に理解しやすくなります。
  • 「腕一本分」のルール: 「お友達と話すときは、手を伸ばして届かないくらいの『腕一本分』あけようね」と、自分の体を使った具体的な基準を教えるのが効果的です。
  • 場面ごとのマニュアル化: 家族、友人、先生、初対面の人など、相手によって適切な距離が異なることを具体例(ソーシャルストーリー)とともに学ぶことも有効です。

家庭や療育の場では、「大好きは言葉で伝えようね」「今は少し離れて話そう」など、否定ではなく**「次にすべき具体的な行動」**を示す声かけが効果的です。同時に、周囲の理解も欠かせません。距離が近いと感じたときには、「少し離れて話してもらえると、先生(お母さん)は安心してお話が聞けるな」と穏やかに伝えることで、本人も「適切な距離をとるメリット」を学びやすくなります。

〇2次的な困難を引き起こす場合も・・

さらに、パーソナルスペースの問題は、二次的な困難を引き起こす点にも注意が必要です。距離感のズレによって対人トラブルが繰り返されると、本人は「なぜか怒られる」「自分は嫌われている」と感じやすくなり、自己肯定感の低下や対人不安、ひいては不登校や孤立といった問題に発展する可能性もあります。

また、パーソナルスペースの感覚は「相手や状況によって変化する」という点が、特性のある子にとっては非常に高いハードルです。

【TPOによる変化の例】

  • 休み時間(校庭): 近くで元気に遊んでいても許容される。
  • 授業中(教室): 集中を妨げないよう、一定の距離が必要になる。
  • 電車内: 知らない人と肩が触れる距離でも我慢が必要。

このような「暗黙のルール」を、「この場所では一歩下がる」「この場面ではカバン一つ分あける」と明確に言語化して伝えることが求められます。支援の際には、単に制限するのではなく、**「距離を取ることで相手も自分も気持ちよく過ごせる」**という理由を丁寧に伝えることが大切です。

〇まとめ

このように、発達障害におけるパーソナルスペースの課題は、単なるマナーの問題ではなく、社会参加や人間関係の質を左右する重要なテーマです。お子さんが「心地よい距離感」を一つずつ身につけていけるよう、具体的な支援と周囲の温かい理解をセットで整えていくことが、誰もが安心して暮らせる共生社会への第一歩となります。

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