「うちの子、なんだか体がふにゃふにゃしている…」「すぐに疲れて座り込んじゃう…」もしかしたら、それは低緊張(筋緊張低下症)のサインかもしれません。
低緊張とは、自分の体を支えるための筋肉の張りが弱い状態を指す言葉で、専門的には筋緊張低下症といわれています。
この状態にあるお子さんは、姿勢を保つことが難しかったり、体がぐにゃぐにゃとしていたりする様子が見られます。
これは、体を支える筋肉の張りが弱いため、自分の体を思うようにコントロールすることが難しいことが原因と考えられています。
低緊張の子どもの特徴と現れ方
低緊張のお子さんには、以下のような特徴が見られることがあります。
- 姿勢の保持が難しい: 長時間同じ姿勢を保てず、すぐに寄りかかったり、座り込んだりする。猫背になりやすい。
- 動きがぎこちない: 全体的に動きが緩慢で、手足のコントロールが苦手。細かい動作が不器用。
- 疲れやすい: 筋肉を効率的に使えないため、少しの運動や活動で疲れてしまう。
- 抱っこしにくい: 体に力が入りにくいため、抱っこした際にぐにゃぐにゃとした感覚がある。
- 哺乳や嚥下に時間がかかる: 口周りの筋肉の緊張も弱いため、吸ったり飲み込んだりする動作がゆっくりである場合がある(乳幼児期)。
- 運動発達の遅れ: 寝返り、お座り、ハイハイ、歩行などの発達がゆっくりであることがある。
- 関節が柔らかすぎる: 関節を支える筋肉の緊張も弱いため、関節が通常よりも大きく動いてしまうことがある。
- 発音が不明瞭: 口や舌の筋肉の緊張が弱いと、言葉の発音がはっきりしないことがある。
これらの特徴は、お子さんによって程度や現れ方が異なります。「うちの子は少し当てはまるかも?」と感じた場合は、専門機関への相談を検討することが大切です。
発達障害と低緊張の関連性
発達障害を持つお子さんの中には、筋緊張の低下が見られることが少なくありません。
その背景には、神経系の発達に関連する要素が影響しています。脳からの指令が筋肉にスムーズに伝わらないことで、体の動きがぎこちなくなったり、コントロールが難しくなったりします。
例えば、発達性協調運動症(DCD)のお子さんには、目と手の協応運動や全身の協調運動の困難さが見られますが、その一因として低緊張が関与していることがあります。
また、自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんの中にも、感覚処理の特性から体の使い方に特徴が見られ、低緊張を伴う場合があります。
低緊張があることで、走る、跳ぶといった粗大運動だけでなく、ボタンを留める、箸を使うといった微細運動も苦手意識を持ちやすくなります。また、姿勢を維持するための筋力が弱いため、集中力や学習面にも影響が出る可能性も指摘されています。
低緊張への具体的な対応策:遊びと運動療育の視点から
低緊張への対応は、原因となる疾患や障害がある場合はその治療と並行して、運動療育を中心としたアプローチが重要になります。大切なのは、お子さんの発達段階や興味関心に合わせて、無理なく楽しみながら取り組むことです。
1. 日常生活での工夫
- 遊びの中で体を動かす機会を増やす:
- ハイハイやトンネルくぐり: 全身の筋肉を使い、体幹を鍛えます。
- ボール遊び(投げる、蹴る、キャッチする): 手足の協調性や距離感を養います。柔らかいボールから始め、徐々に難易度を上げていきましょう。
- 砂場遊び: シャベルで掘る、山を作るなどの動作は、手指の巧緻性や腕の力を養います。
- 水遊び: 水の中での抵抗を利用して、全身の筋肉を意識的に動かすことができます。
- 絵本の読み聞かせや手遊び歌: 座って聞く姿勢を保つ練習になります。手遊び歌は、手指の運動にもつながります。
- 正しい姿勢を意識する:
- 座る際には足裏を床につけ、背筋を伸ばすことを意識させます。
- 食事の際には、高さの合った椅子や机を選ぶようにしましょう。
- 絵を描いたり、何か作業をする際には、机に肘をつくなど、楽な姿勢を見つけてあげましょう。
- 日常生活動作の練習を遊びに取り入れる:
- 着替え: 大きなボタンやマジックテープの服から始め、徐々に細かいものに挑戦します。
- 食事の準備: 食材を混ぜる、運ぶなど、できる範囲で役割を与えます。
- 片付け: おもちゃを箱に入れる、本を棚に戻すなどの動作は、体幹や腕の筋肉を使います。
2. 運動療育の具体的なアイデア
運動療育は、専門家(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士など)の指導のもとに行われることが望ましいですが、家庭や保育・教育現場でも取り入れられる簡単な活動があります。
- ストレッチ:
- 手足をゆっくり伸ばす: 柔軟性を高め、関節の可動域を広げます。
- 親子で一緒にストレッチ: 遊び感覚で楽しく取り組めます。
- ポイント: 痛気持ちいい程度の強さで、反動をつけずに行います。
- 体幹トレーニング:
- 腹ばいで手足を浮かせる(飛行機のポーズ): 背筋や腹筋を鍛えます。
- 四つん這い: 体幹の安定性を高めます。
- ボールに座ってバランスを取る: バランス感覚と体幹の筋力を養います。
- ポイント: 短時間から始め、徐々に時間を延ばしていきます。
- 7つのコーディネーショントレーニング:
- リズム能力:
- 手拍子や足踏みでリズム遊び: 音楽に合わせて体を動かす楽しさを体験します。
- ケンケンパ: リズム感とバランス感覚を養います。
- バランス能力:
- 一本橋渡り: バランス感覚を養います。最初は低い場所から始め、徐々に高くしていきます。
- 片足立ち: バランス感覚を養います。最初は壁や椅子につかまってもOKです。
- 変換能力:
- 「ストップ」「ゴー」などの指示に合わせて動きを変える遊び: 状況に応じた素早い動きの切り替えを促します。
- 反応能力:
- ボールキャッチ: 飛んでくるボールに素早く反応する練習になります。
- 絵カードを見て指定されたポーズを取る: 視覚的な刺激への素早い反応を促します。
- 連結能力:
- サーキット遊び(跳ぶ、くぐる、這うなど複数の動作を組み合わせた遊び): スムーズな体の動きを促します。
- 定位能力:
- フープや輪投げ: 自分と目標物との距離感を養います。
- ボールを的に当てる: 空間認知能力を高めます。
- 識別能力:
- 縄跳び: 手足と縄の動きを協調させる練習になります。
- 三輪車や自転車: バランスを取りながらペダルを漕ぐ動作は、全身の協調性を養います。
- リズム能力:
- 水泳: 水の浮力により関節への負担が少なく、全身の筋肉をバランスよく鍛えることができます。
- トランポリン: 楽しみながら全身の筋肉を刺激し、バランス感覚を養います。
3. 周囲の理解と協力
低緊張のお子さんは、運動が苦手なだけでなく、疲れやすさから活動への意欲が低下してしまうこともあります。周囲の大人が低緊張について理解し、無理強いせず、できたことを褒め、励ますことが大切です。
「ゆっくりでいいよ」「少しずつやってみよう」といった温かい声かけは、お子さんの自信につながります。
また、保育園や幼稚園、学校などの関係機関と連携し、お子さんの特性を共有し、協力体制を築くことも重要です。
医療機関への相談も大切
低緊張の原因には、染色体異常による症候群や脳性麻痺などの神経系の疾患が隠れている場合もあります。
意識しても緊張状態が保てない、発達の遅れが顕著であるなどの気になる症状が見られる場合は、自己判断せずに、小児科や児童神経科などの専門医に相談することをおすすめします。
適切な診断と早期の介入が、お子さんの発達を大きく左右することがあります。
まとめ:焦らず、楽しみながら、お子さんのペースで
低緊張のお子さんの成長には、周りの理解と適切なサポートが不可欠です。
焦らず、お子さんのペースに合わせて、遊びや運動を通して体を動かす楽しさを体験させてあげてください。
専門家との連携も視野に入れながら、お子さんの可能性を最大限に引き出せるよう、私たち大人がサポートしていきましょう。
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