病院やクリニック、そして近年注目されている放課後等デイサービスなどの児童福祉施設にも、理学療法士(PT)が専門職として活躍しています。
「リハビリの先生」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、特に子どもたちの成長を支援する現場では、その役割は多岐にわたります。
この記事では、医療分野での基本的な理学療法士の役割は簡潔に触れつつ、児童福祉の現場で働く理学療法士の仕事内容にフォーカスし、具体的な業務事例を交えながらご紹介します。
理学療法士とは 【 動きを通して「できる!」を支える専門家 】
理学療法士(PT)は、病気や怪我、高齢などによって身体の機能が低下した方に対し、運動療法や物理療法を用いてリハビリテーションを行う専門職です。
主な目的は、患者さんの運動機能を最大限に回復させ、日常生活の質(QOL)を向上させること。
その中でも、児童福祉の分野における理学療法士は、発達や成長の過程で運動機能に課題を抱える子どもたちに対し、専門的な知識と技術を用いて、その子どもの成長段階に応じたオーダーメイドの支援を提供します。
生まれつきの疾患や障害、怪我による機能低下だけでなく、発達の遅れや、日常生活を送る上での動作の困難さに対して、運動を通して「できる!」を増やしていくのが、小児理学療法士の大きな役割です。
理学療法士になるまで 【 専門知識と国家資格 】
理学療法士になるためには、まず文部科学大臣が指定する理学療法士養成校(3年制または4年制の大学や専門学校)に入学し、解剖学、生理学、運動学といった医学的基礎知識や、様々なリハビリテーション技術を専門的に学びます。
卒業後には、理学療法士国家試験に合格することが必須です。
国家資格取得後は、
・病院
・介護施設
・スポーツ施設
・訪問リハビリテーション事業所
・放課後等デイサービスなどの児童福祉施設
などの幅広い領域で活躍することができます。
児童福祉の現場で働く理学療法士の仕事 【 具体的な業務事例 】
児童福祉の現場、特に放課後等デイサービスなどで働く理学療法士は、子ども一人ひとりの発達段階や特性を深く理解し、多角的な視点から支援を行います。以下に具体的な業務事例をご紹介します。
1. 個別支援計画に基づいた運動療育プログラムの作成と実施:
・事例: 歩行が不安定な小学2年生のA君(脳性麻痺)。
理学療法士は、A君の筋力、バランス能力、関節の可動域などを詳細に評価し、目標設定を行います。
「1人で安全に10メートル歩けるようになる」「段差を一段乗り越えられるようになる」といった目標に向け、A君に合わせた筋力トレーニング、バランス練習、歩行練習などを組み合わせたプログラムを作成し、遊びを取り入れながら楽しく実施します。
2. 日常生活動作(ADL)の練習と支援:
事例: 手先の不器用さがあり、着替えに時間がかかる5歳のBちゃん(発達性協調運動症)。
理学療法士は、Bちゃんの肩や腕の動き、手指の巧緻性などを評価し、着脱しやすい衣服の選び方や、ボタンやファスナーの操作を段階的に練習するプログラムを提供します。
絵カードを活用したり、歌を歌いながら行うなど、Bちゃんが意欲的に取り組めるよう工夫します。
3. 姿勢保持や移動手段に関する相談・支援:
事例: 筋力低下により、長時間座位を保つことが難しい中学1年生のCさん(筋ジストロフィー)。
理学療法士は、Cさんの体幹の安定性や呼吸機能を評価し、学校生活や家庭での適切な座位保持のための姿勢調整具(クッションや椅子の工夫など)を提案したり、電動車椅子の操作訓練を行ったりします。
学校の先生や家族と連携し、Cさんが快適に学校生活を送れるよう環境調整にも関わります。
4. 感覚統合の視点を取り入れた支援:
事例: 特定の触覚刺激に過敏さを持つ4歳のD君(自閉スペクトラム症)。
理学療法士は、D君の感覚処理の特徴を評価し、ボールプールやトランポリン、様々な素材を使った遊びなどを通して、D君が様々な感覚刺激に徐々に慣れていけるようなプログラムを提供します。
遊びを通して、D君の運動機能の発達も促します。
5. 他職種との連携と情報共有:
事例: 言語発達の遅れも見られる3歳のEちゃん(ダウン症候群)。
理学療法士は、作業療法士や言語聴覚士と定期的にカンファレンスを行い、Eちゃんの運動面、手指の巧緻性、コミュニケーション能力の発達状況について情報を共有し、それぞれの専門性を活かした連携支援を行います。
保育士や保護者とも密に連携し、家庭での過ごし方や練習方法についてのアドバイスも行います。
6. 保護者への相談・指導:
事例: 在宅で医療的ケアが必要な未就学児のFちゃんの保護者さまに対し、
理学療法士は、Fちゃんの呼吸や循環の状態、発達段階に合わせた安全な抱き方、ポジショニングの方法、家庭でできる簡単な運動遊びなどを具体的に指導します。
定期的な訪問や電話相談などを通して、保護者の不安軽減や育児スキルの向上を支援します。
7. 記録・評価とチーム内研修:
事例: 実施した運動療育の内容や、子どもたちの変化を丁寧に記録し、定期的に評価を行います。
その評価結果を元に、支援計画の見直しや改善を行います。
また、チーム内のスタッフ向けに、発達障害の特性や、子どもへの効果的な運動療育に関する研修会を実施し、全体の専門性向上に貢献します。
小児理学療法の目的 【 未来への可能性を広げる 】
小児理学療法の目的は、単に運動機能を向上させることだけではありません。
・基本的な運動能力の獲得と向上:
歩く、立つ、座る、起き上がる、走る、跳ぶといった、日常生活を送る上で不可欠な動作をスムーズに行えるように支援します。
・発達の促進と遅れの克服:
発達の遅れが見られる子どもに対し、適切な運動遊びや運動療法を通して、その子の持てる力を最大限に引き出し、発達を促します。
・日常生活動作の自立に向けた支援:
着替え、食事、排泄、入浴、遊びなど、子どもたちが自立して日常生活を送れるよう、必要な身体機能の向上を支援します。
・社会参加の促進:
運動機能の向上を通して、子どもたちが積極的に遊びや集団活動に参加し、社会性を育むことを支援します。
・二次的な問題の予防:
長時間同じ姿勢でいることによる体の痛みや変形、運動不足による体力低下など、二次的に起こりうる問題を予防するための支援を行います。
支援の要 【 遊びを通した学びと、温かい関わり 】
児童福祉の現場における理学療法士の支援は、決して単調な訓練の繰り返しではありません。子どもたちが楽しみながら主体的に取り組めるよう、遊びの要素をふんだんに取り入れた運動療法が中心となります。
例えば、ボール遊びを通して投げる・ catch する協調運動を促したり、障害物コースを作りながらバランス感覚や空間認知能力を養ったりします。トランポリンやバランスボールは、子どもたちの意欲を高めながら、体幹の安定性やバランス能力を効果的に向上させるための重要なツールです。
そして何よりも大切なのは、理学療法士が子ども一人ひとりの個性や成長を尊重し、温かい信頼関係を築くことです。子どもたちの小さな「できた!」を一緒に喜び、励ますことで、自己肯定感を育み、前向きな気持ちでリハビリに取り組めるようサポートします。
最後に 【 子どもたちの笑顔のために 】
小児理学療法は、子どもたちが持てる力を最大限に伸ばし、自分らしく生きるためのサポートを提供する、やりがいのある仕事です。運動機能の改善という目に見える成果だけでなく、子どもたちの笑顔や成長を間近で見られることは、何にも代えがたい喜びです。
ご家族や保育士、教員、その他の専門職と連携しながら、地域全体で子どもたちの成長を支えていく。それが、児童福祉の現場で働く理学療法士の願いです。
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