大声で泣いたり、激しく奇声を発したりする「癇癪(かんしゃく)」は、1歳頃からみられます。2歳から3歳頃には、自分の意見を言葉や行動で主張するようになり、癇癪が激しくなる時期でもあります。また、癇癪は幼児期に限られた行動ではなく、児童期にも見られ、思春期や大人になっても続くこともあるようです。
癇癪は子どもの成長過程のひとつです。その表れ方には個人差がありますが、激しい癇癪の対応は、保護者や周りが疲弊してしまうこともあります。
子育てをする中で、子どもの癇癪にどう対応すべきか悩む親は少なくありません。突然の泣き声、叫び、物を投げる行動などは、親にとって困惑やストレスの原因となることもあります。しかし、癇癪は子どもが自分の気持ちやニーズを表現する一つの方法であり、成長の過程で自然に現れるものでもあります。本コラムでは、児童福祉の観点から、癇癪にどう向き合い、子どもを支えるためにどのような方法が有効であるかを考えます。
なぜ癇癪は起きるのか?
癇癪は、子どもの感情が爆発的に表出される状態を指します。特に2~4歳ごろの幼児期には、言語能力が発達途上にあるため、自分の感情や欲求を適切に言葉で表現することが難しく、癇癪を通じてそれらを伝えようとすることがあります。また、以下のような要因も癇癪の引き金となることがあります。
生理的要因: 空腹、疲労、睡眠不足など。
心理的要因: 欲求が満たされない、失敗へのフラストレーション、不安や恐れ。
発達的要因: 感情コントロールや問題解決能力が未熟であること。
環境的要因: 騒がしい場所、過剰な刺激、変化への適応が難しい場面。
これらの要因を理解することは、子どもの癇癪を冷静に受け止める第一歩です。
癇癪への基本的なアプローチ
癇癪が起きたとき、親として何をすべきか。以下に、具体的なアプローチを紹介します。
1. 冷静さを保つ
癇癪が始まると、親も感情的になりがちです。しかし、親が怒りや焦りで反応すると、子どもはさらに不安を感じ、癇癪が長引くことがあります。深呼吸をし、自分の感情を落ち着かせることが大切です。親が冷静でいることで、子どもも少しずつ落ち着きを取り戻しやすくなります。
2. 安全を確保する
癇癪中、子どもが物を投げたり、自分や他人を傷つけたりする場合があります。そのようなときは、まず周囲の安全を確保しましょう。必要であれば子どもを安全な場所に移動させ、物理的な危険を最小限に抑えます。
3. 感情を受け止める
「そんなに泣かないで」「もういい加減にして」という言葉は、子どもの感情を否定してしまうことがあります。代わりに、「怒っているんだね」「悲しい気持ちなんだね」と言葉にして、子どもの感情を受け止めましょう。これにより、子どもは自分の気持ちを理解されていると感じ、安心感を得られます。
4. 理由を探らない
癇癪中に、「どうしてこんなことをするの?」「なぜ怒っているの?」と問い詰めるのは逆効果です。子どもが冷静になるまで待ち、落ち着いた後で理由を聞く方が効果的です。
5. 共感と境界線のバランスを取る
癇癪に共感することは重要ですが、全てを許容する必要はありません。例えば、「怒ってもいいけど、物を投げるのはやめようね」と伝えることで、感情を認めつつ行動に制限を設けることができます。
癇癪を減らすための予防的アプローチ
癇癪を完全に防ぐことはできませんが、頻度を減らすために以下のような予防策を講じることができます。
1. 予測可能な生活リズムを作る
日々の生活に一貫性があると、子どもは安心感を持つことができます。食事や睡眠、遊びの時間を規則正しく整えることで、子どもの情緒が安定しやすくなります。
2. 選択肢を与える
自分で選べると感じることは、子どもの自主性を育むだけでなく、癇癪の予防にもつながります。「青い服と赤い服、どちらを着たい?」と選択肢を与えることで、子どものフラストレーションを減らすことができます。
3. 感情を言葉で表現する練習をする
日常生活の中で、「今、どんな気持ち?」と問いかけたり、「ママも今日は疲れちゃった」と親自身の感情を言葉にしたりすることで、子どもは感情表現の方法を学びます。
事例ごとに対応方法を確認してみよう!
それでは癇癪を起きた際、どのように対応すればいいのでしょうか?
ケースごとに対応方法を確認していきましょう。
事例1 ゲームをして負けてしまった時に癇癪を起すことがある
まずは感情の温度計を使って、今の気持ちを聞いてみましょう。今は嬉しい気持ちなのか、それとも苛々しているのか、怒っているか。
その後気持ちが発散できる場所や活動を決めておきましょう。活動を予めリストアップしておいて「どれやろうか」と一緒に決めるのも良いでしょう。
反対に、事前にお子さんと「イライラしたら深呼吸をする」「苛々したら、水を飲む」と決めておき、「今イライラしてるから、深呼吸しようか、水を飲もうかと」と促すのも良いかと思います。後に、もう一度イライラ温度計で気持ちを表してもらい、どれくらいお子さんのイライラが減ったか確かめます。繰り返すことで苛々したら、どうするべきか癇癪を起してしまうお子様も見通しを立てて行動することが出来ます。
事例2 癇癪を起した際、おやつを上げることで静かに過ごすことが出来る、または泣いている時に、タブレットの動画を見ると泣き止んでくれる
癇癪を起した際、おやつを上げることで静かに過ごすことが出来るについて、早く機嫌を直すためにお菓子を渡すこともあるかと思います。しかし、これを繰り返ししていると子どもたちは『泣けばお菓子がもらえる』と誤学習します。お菓子をもらえることで子どもの気持ちは一時的にハッピーになりますが、この方法はあくまでもその場しのぎです。
子どもは自分のやりたいことが出来なかったり、思い通りにならなかった時に、癇癪を起します。そこで大切なのは我慢の経験です。ここでお菓子を上げてしまうと子どもはなにも我慢しないままハッピーな気持ちになります。少しずつ我慢の経験をさせることで、社会のルールを学び、集団になじめるようになるのです。
お菓子を渡すときは、お子様がいい行動をしたときに行うと良いと思います。自発的に片付けをしたり、自ら手洗い、うがいを行った時にお菓子を上げると気持ちもハッピーになり、その行動をより自発的に行うようになります。
お菓子を途中でやめることが出来ない場合には、予め適量だけを要し、本人に渡すと良いと思います。視覚的にあと何個、どのくらいと見えることで、見通しが立てられるからです。より効果があるのは自ら選ばせるということです。自ら選ぶことで『おしまいにする』と納得しやすいからです。食べられないお菓子は子どもの目に届かない場所へ保管しましょう。
事例3 活動の中断が出来ず、暴言、手が出てしまう
好きな事に夢中になっていると途中でやめることが出来ず、中断させようとすると暴力が出てしまう、気持ちのコントロールが出来ないことがあります。
気持ちのコントロールの練習のために、あと5分といってもどれくらいで活動を切り替えればいいのか分かりません。具体的な時間を示すことが大切で。例えばタイマーを使用して、鳴ったら切り替えるというように視覚的に分かりやすくすると良いと思います。より効果があるのは、一緒に時間を決めることです。より切り上げられる理由にもなります。
または活動を始める前に、何時まで、またはタイマーで30分と決めて取り組むといったように、事前に予告していくことも大切です。
上記の内容についてはあくまでも参考事例になります。決してこうすればいいということではありませんが、一番大切なのは、子どもの行動を観察し、良いところを見つけることです。日常生活の中で子どもの行動を見ると言うことはとても大変なことです。大人は子どもを育てながらも仕事や家事も行います。ずっと子どもだけを見続けることは出来ず、ふと見た時にマイナスな行動が目についてしまいます。癇癪もマイナスな行動に捉えがちですが、成長する過程ではとても大切です。大人は自分自身の関りを見つめなおし、自分の行動が子どもにどんな影響を与えるのか考え、振りかえること、そしてたくさん見つけて褒めることが大切です。
親自身のケアも大切
癇癪への対応は親にとって大きなエネルギーを消耗する行為です。親自身が心身ともに健康でいることが、子どもの安定した成長を支える基盤となります。十分な休息をとり、時には信頼できる人に相談することも忘れないでください。
おわりに
子どもの癇癪は一時的なものですが、その対応の仕方次第で、親子関係の基盤が大きく変わります。感情を受け止めつつ、子どもの成長を見守る姿勢を大切にし、親子で困難を乗り越える経験を積み重ねていきましょう。そのプロセス自体が、子どもの未来の力となり、親にとっても成長の機会となります。
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