はじめに
毎日の学校生活で、子どもたちはたくさんの「持ち物」を管理しなければなりません。
教科書、ノート、ハンカチ、ティッシュ、給食セット、提出物…。季節や授業内容によっては、水泳道具、マフラー、手袋、習字道具、絵の具など、持ち物の種類は多岐にわたります。
こうした準備を子どもが一人でこなすのは、実はとても高度なスキルです。
特に発達に凸凹のあるお子さんにとっては「忘れ物をしないこと」は、大人が思っている以上にハードルが高いのです。
忘れ物をしてしまうのはなぜ?
忘れ物の背景には、次のような要因があります。
1. ワーキングメモリの課題
一度に複数の情報を保持し、処理する「ワーキングメモリ」の働きが弱いと、
「宿題のプリントをランドセルに入れるのを忘れる」
「給食袋のことまで頭が回らない」
といったことが起きやすくなります。
2. 見通しを立てる力の未熟さ
「明日は図工があるからエプロンが必要」
「体育があるから体操服を準備しないと」
といった“明日を見通して行動する力”は、年齢や発達段階によって個人差が大きいものです。
3. 視覚的な整理が苦手
ランドセルの中がごちゃごちゃしていて、何が入っているか自分で把握できていない、という子どももいます。
忘れ物というより「探し物が見つからない」というケースも多くあります。
忘れ物への対応策 ~家庭でできること~
① 準備の習慣化は「成功体験」がカギ
「忘れ物をしないように!」という声かけだけでは改善されにくいものです。大切なのは、子どもが「自分で準備して、うまくいった!」という成功体験を重ねること。たとえば:
- 前日の夜に一緒にチェックリストを見ながら準備する
- 準備ができたら「できたね!」と声をかける
- チェックリストにシールを貼るなど、視覚的なご褒美を取り入れる
※あるご家庭では「ランドセルステーション」を設け、文房具・連絡帳・給食袋などの定位置をつくることで、子どもが自分で準備できるようになりました。
② チェックリストを活用しよう
「今日の持ち物」を自分で確認できるよう、視覚支援としてチェックリストや「持ち物カード」を使うと効果的です。
- カラフルでイラスト入りにすると、幼児~低学年でも視認しやすくなります
- 放課後等デイサービスなどでも、カードを使って確認する支援をしている施設があります
③ 「探す力」も一緒に育てる
忘れ物は「準備しなかった」だけでなく、「見つからなかった」ということもあります。
- 「どこにありそうかな?」と選択肢を出して予測させてみる
- 「水筒はいつもキッチンの棚」「ハンカチは洗面所」と決まった場所に置く習慣をつける
※支援施設では、あえて一緒に探さず「ヒントだけ出す」声かけで、子どもの自発的な行動を促す工夫をしています。
学校での対応力を育てる
どんなに準備しても、忘れ物は誰にでもあります。忘れ物をしたときの「対応力」も同時に育てていくことが大切です。
- 「忘れたことを先生に伝える」
- 「友だちに貸してもらう」
- 「どうしたら良いか先生に相談する」
※放課後等デイサービスでは、ロールプレイやSST(ソーシャルスキルトレーニング)で、こうしたスキルを身につける支援も行われています。
ある支援事業所では、忘れ物に気づいた時の想定練習として「もし筆箱を忘れたらどうする?」というやり取りを遊び感覚で取り入れ、子どもたちの「困ったときの対処力」を育てています。
保護者として気をつけたいこと
子ども自身も「しまった」と思っていることが多く、そこにさらに叱責が重なると、「どうせ自分はダメなんだ」と自己肯定感を下げてしまう可能性があります。
冷静に、「どうしたら次は忘れずにすむか」を一緒に考えていきましょう。
「困る経験」も成長のチャンスです。
届けたくなる気持ちはぐっとこらえ、「どうしたらよかったか」「次はどうする?」と振り返る時間を持ちましょう。
あくまでも準備は子ども自身のタスクです。
初めはサポートが必要ですが、徐々に「見守る」「任せる」姿勢へと移行していくことが大切です。
忘れ物を通して“自立”を育む
放課後等デイサービスや児童発達支援などの福祉サービスでは、忘れ物への対応や準備の支援も大切なプログラムの一つです。
たとえば:
- 毎日の持ち物チェック表を一緒に確認
- 教材の出し入れをする練習
- 忘れ物をしたときのロールプレイ
こうした取り組みを通して、子どもたちは「自分でできた!」という感覚をつかみ、学校でも安心して過ごせるようになります。
保護者の方にとっても、「家では難しかったことが、施設ではできている」と感じることで、前向きな気持ちになれるはずです。
おわりに
忘れ物は、ただの「うっかり」ではなく、子どもが日々の生活や成長の中で直面する“学び”の一つです。そこには、その子なりの理由や背景があるかもしれません。
保護者だけで抱え込まず、必要に応じて支援機関や学校、放課後等デイサービスなどと連携しながら、子どもの「できた」を一緒に積み重ねていきましょう。
一歩一歩、「自分でできること」が増えていく過程を、私たち大人が安心して見守ることが、子どもの大きな力になります。
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